研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

日時:2007年12月22日(土)13:00~17:00
場所:上智大学四谷キャンパス第2号館6階2-630a(アジア文化共用会議室)
参加者:12名
報告:
 斎藤剛(日本学術振興会特別研究員)
  「現代モロッコにおけるタリーカと権威―タリーカ・ブーチシーヤを中心的事例として」
 Simone TARSITANI氏(日本学術振興会特別研究員)
  "An Ethnomusicological Study of the Islamic Rituals of Harar, Ethiopia" →報告②

報告①
○斎藤剛(日本学術振興会特別研究員)
「現代モロッコにおけるタリーカと権威―タリーカ・ブーチシーヤを中心的事例として」

 斎藤氏は、「現代モロッコにおけるタリーカと権威―タリーカ・ブーチシーヤを中心的事例として―」と題して報告を行った。本報告は、現在モロッコにおいて最も大きな勢力を持つ教団とされるタリーカ・ブーチシーヤの紹介を通して、その勢力展開の背景、およびシャイフの権威がどのような基盤によって支えられているのか、などについて考察を加えたものである。
 18世紀半ばに創設されたタリーカ・ブーチシーヤは、カーディリー系の教団で、現在モロッコ東部ウジュダ近郊のマダーグに本拠地を置く。同教団は創設以来、歴代のシャイフのもと他教団との関係を維持しながら発展を遂げ、1960年代以降、都市におけるタリーカ復興とともにモロッコ全土に影響を及ぼすようになった。2000年初頭には、数万人の教団員を有したとされ、そのような教団の勢力拡大の背景には、青年層や高級官僚、大学教員、役人などの知識人層への浸透、出稼ぎ移民を媒介としたヨーロッパ諸国など海外への普及、メディアへの露出が挙げられるという。また、成員を補充するための施策も教団発展の重要な要因となったと指摘している。具体的には、おもに教団による教育や啓蒙活動の強化、新入会者のための合宿、夏季スーフィー大学の開講、公の場における数珠の所有や髭を強制しないなど、タリーカに付随する一般的なイメージの転換である。
 報告者は、さらにシャイフの正当性を示す根拠についても論じた。中でも強調されるべきは、モロッコ東北部において同教団が、ダルカーウィーヤやティジャーニーヤとの関係を主張した一方で、アラーウィーヤとの関係についてはこれを可能な限り忌避したという点にある。報告者によれば、前者は、ブーチシーヤのスーフィズムとしての正統性を表明するための手段であり、後者については、すでに同地域で確固たる基盤を樹立していたアラーウィーヤへの警戒心に起因する。ブーチシーヤは、他教団との接触の有無を意図的に操作することによって、シャイフの権威確立を促したとされる。
 以上のように、斎藤氏は、タリーカ・ブーチシーヤの創設から現在までの教団発展の歴史、シャイフの素描、教団の組織や儀礼などを詳細に分析、紹介するとともに、自身の現地調査にまつわるエピソードも披露された。報告後も参加者からさまざまな質問が寄せられ、それに関する議論も活発に行われた。本報告は、モロッコの事例を通してタリーカを理解するための新たな視点を提示した貴重な報告であった。
(関佳奈子・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士後期課程)