研究会報告

報告者:Idris Salim ElHassan
(Associate Professor, International University of Africa, the Sudan)
報告題名: "Operationalizing Islam to Impact Societal Change in the Sudan"



概要:
 現代スーダンで(とくに北部を中心として)生じてきた一連のイスラーム運動と、それが当該社会に与える影響を理解するうえで、宗教、とりわけイスラームという要素を考慮することが欠かせない。イスラームの信仰はムスリムの人びとの日常生活において決して一枚岩的なものではなく、地域をとりまく歴史、文化、言語、政治経済、近隣諸国とのかかわりなどをふくめた社会の動態を反映するものとしてとらえることも重要になる。
 1956年に独立したスーダン(2011年には南部が分離独立)を舞台に、これまで数々の運動が展開されてきた。例えば、スーダン北東部で影響力が拡大したハトゥミーヤ教団などのスーフィ教団による啓蒙活動、アラビア半島に端を発し18世紀にスーダンへ浸透したワッハーブ運動、19世紀末当時のエジプト領スーダンで「解放運動」の性格を有したマフディー運動などである。報告者によると、マフディー運動はいわゆる「復興運動」の一端として位置付けることもできるという。
 また、近年のイスラーム運動のもっとも重要な存在のひとつとして、高等教育を受けた指導者が着目された。とくに1940年代から徐々に政治的、経済的基盤をかためていったハトゥミーヤ勢力や、マフディー運動の流れをくむ勢力が例に挙がり、ゴードン・メモリアル・カレッジ(現ハルトゥーム大学)などの学生などが動員され国政を席巻していった過程が述べられた。なかでも、1986年の選挙で第三政党となり、1989年には約20年続いたヌマイリー政権を打倒した軍事クーデタにもかかわった民族イスラーム戦線(NIF)の設立者、ハサン・トゥラービーについて言及された。ただし、宗教指導者の権力は、1970年代以降しだいに弱まっていったとの指摘があった。このほか、サラフィー主義勢力や共産主義勢力とのかかわりについても話がおよび、地域で展開しているイスラーム運動を通時的にとらえ、そこに携わる諸集団と個人の価値観の多様性、それらの相互作用、同時代性を考慮することの重要性がくり返し強調された。

会場からの質疑:
 トゥラービーが求心力を獲得したのち、支持基盤を失っていった背景について質問があった。また、周辺地域で紛争がたびたび勃発し、国内にも石油資源などをめぐる紛争の火種をかかえて危機的ともいえる状況が続く要因はなにかという問いについては、(スーダンの)政治体制そのものが混乱を維持する一因になってしまっていること、また、米国をはじめとする欧米諸国の対応にも目をむけるべきとの回答があった。

文責:山崎暢子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・一貫制博士課程)