「グローバル時代の現代社会/社会問題を社会運動から分析する」
近年、様々な地域の人々が国家という枠組みを越えつつ関係を構築しています。例えば、インターネットの発展に伴うSNSの発展は複数地域の人々に、リアルタイムでの情報の交換を行っています。このように現代社会とは、ローカル/ナショナル/トランスナショナルという多層的なレベルにおける人々の相互作用から構成されていると考えることができるでしょう。こうした相互作用によって特徴づけられる社会にて、発生している様々な「問題」とされる事柄をどのように理解・解釈し、解決・改善すればいいのか。これを探求することが私の課題と考えています。この課題を探求するため、様々な事例を対象にしつつ、グローバリゼーション論、社会運動理論の観点から分析を行ってきました。
グローバリゼーション論の観点からは、グローバル化のメカニズムとそれによって人々の生活世界にいかなる変化がもたらされたのかに焦点を当てています。例えば、3.11以降、日本各地に大きな脱原発運動の波が発生しました。他方、こうした波は、日本にのみに限定されていません。韓国や台湾などの東アジア諸国、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国、そしてアメリカでも同様に脱原発のうねりが広がりました。このように、国家を越えて同一の現象が普及・拡散(diffusion)するメカニズムとはいかなるものか、いかなるプロセスを経て、ローカルな人々はグローバル化の影響を受けるのか。これらの問いが私の研究テーマの一つの軸としてあります。
社会運動理論の観点からは、主に以下の2点に着目します。第1に、人々がいかなる問題意識や不満を構築・共有するのかといった主観的な側面、第2にその行為をとりまく資源の変動や政治と生活の関係の変化などの客観的な側面です。このように、社会運動理論では、社会運動現象に焦点を当てつつ、人々の価値観や問題意識の変化とその要因、あるいは、運動をとりまく物理的な環境とその変化を観察・分析の対象とし、なぜ、人々は社会運動を起こす/社会運動に参加するのか、という問いを設定します。こうした観点をもとに、私は社会運動の検討を通じて、人々の価値・問題意識とその醸成や構築の過程に焦点を当てつつ、現代社会で発生している様々な「問題」を紐解くことを狙ってきました。これが私の研究テーマのもう一つの軸です。
私の取り組んできた活動の具体的な一例として、反原発運動を事例に「社会運動に参加する人々はどのように価値・問題意識を構築してきたのか」、「グローバルな社会運動とローカルな社会運動の関係はどのようなものか」という問いから行った研究を紹介します。この問いに対して、社会運動理論における「意味論」と「集合的アイデンティティ」アプローチをもとに分析デザインを設定し、分析・考察を進めました。前者は人々の「意味」付与行為、すなわち、問題の解釈や理解の仕方と、その源泉の連鎖に焦点を当てます。後者は、運動に関与する人々が相互作用を経て、運動や抗議目的の解釈や理解を参加者が共有していく点に焦点を当てます。こうしたアプローチを中心に据えつつ、さらに対象とする社会運動の歴史、地域の風習や文化、個々人の経験や記憶を観察・分析し、研究を進め、以下2つの考察を得ることができました。第1に、社会運動に参与した人々は、個々の生活や経験などの要素を源泉として「意味」を構築していたことを明らかにしました。例えば、対象とした地域にもたらされた原発立地計画は、当該地域の伝統的な行事の中止をもたらしました。これが意味することは地域住民の日常的な共同活動の延長線上にあるイベントの破壊でした。つまり、原発立地計画は、日常を破壊するもの、と意味づけられたのです。このことが地域の人々の不満や怒りにつながり、反対運動へと至った要因の一つであることを明らかにしました。
第2にローカルな運動がグローバルなモノ全てを享受しているのではなく、運動のタイミングにあわせて取捨選択をしていることを明らかにしました。例えば、対象とした運動では、活動の中期頃に「反対に特化した活動」から「地域の活性化も目的とした活動」を行うように変化していました。こうした変化が、自然保護・活用を目的としたグローバルな団体との交流につながったことが分かりました。さらに、こうした交流を続けることで、運動が変化し続けていることも捉えることができました。
以上の結論から、私が得たインプリケーションは、社会運動/集合行動を「客観的に見える目的や問題意識」のみで捉えてはならないという点です。近年、盛んに展開されてきた安保法案反対運動もこうした示唆をもとに観察してみれば、そこでは反原発や貧困、差別、そして生活の問題を提起する多くの参加者がいることを発見できます。つまり、社会問題はその時々の人々によって意味づけられ、変動していくという考え方に留意する必要があるかと思います。すなわち、運動が前面に押し出している問題の解釈と実践されている空間での問題の解釈には共通点と差異があることが想定されます。このような研究を通じて、現代社会における、「問題」とされる事柄をどのように理解・解釈し、解決・改善すればいいのかを探求していきたいと思います。
氏名:龍野洋介( 2016年度満期退学)
所属:国際関係論専攻博士後期課程
紹介した研究:「トランスナショナルな「意味」がローカルな「意味」に交わるところ―山口県上関町祝島での反原発運動を事例として―」,『AGLOS』2015.)