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エスニック・マイノリティの政治参加を考える―ブラジル日系人の歴史から

2020.06.28

エスニック・マイノリティの政治参加を考える―ブラジル日系人の歴史から

現在、日本国外で最も多くの日系人が住んでいる国はブラジルです。その理由は日本人の海外移住の歴史に遡ります。日本人の海外への集団移住は19世紀末に始まり、日本帝国圏のほかに南北アメリカの様々な地域へも渡りました。日本に農地が十分でなかった時代、単身、または家族での移住が促進されたのでした。第二次世界大戦を機に移住の流れは一旦途絶えましたが、特に南米は、その後も戦後直後の荒廃し、貧しかった日本の人々の移住先となりました。ブラジルやパラグアイ、アルゼンチン、ボリビアのような戦後も多くの移住者を受け入れた国々では、現在の日系人の間に世代の幅が広く見られ、年長者は一世から年少者では五世まで様々な世代の方がおられます。

 移民と移住国の制度

日本は出生地主義を取らず、血統主義であるため、日本生まれの移民の子どもであっても日本国籍保有者の配偶者の子どもである、もしくは帰化申請を行う場合などを除いて、日本国籍を得ることはありません。そして、日本国籍を持たない移民やその子孫への参政権は限られています。一方、日本とは異なり、南北アメリカの多くの国では、出生地主義が採用されてきました。ブラジルへ渡った日本人移民の場合も、現地で生まれた二世の子どもはブラジル国籍が与えられ、ブラジル人として認められてきました。そのため、国籍を得て、一定の年齢に達した二世、三世には参政権が与えられ、第二次世界大戦後から多くの日系人がブラジルの選挙に参加するようになりました。

ナショナルな政治の中で

戦後のブラジルは民主化、軍事政権、再民主化の時代と大きな政治の変化を経ました。戦後、ブラジルでいち早く社会への統合、社会上昇を果たすことを目指していた移民一世や二世の志向は、政治に対して保守的な態度を促しました。受入国の社会規範、価値観に従い、社会から模範的なマイノリティとみなされる集団を指して、モデル・マイノリティという概念がありますが、戦後ブラジルの日系人の状況にもそれが当てはまると考えられます。

日系人は第二次世界大戦前から、ジェトゥリオ・ヴァルガス政権が行った同化政策の対象となり、大戦中は連合国側だったブラジルにおいて敵性市民として非難され、抑圧を受けてきました。そのような戦前の苦い経験、記憶が戦後の日系人の行動をより慎重にさせたと考えられます。

特に、ブラジル日系人のモデル・マイノリティとしての性格は1964~1985年の軍事政権の時代に見られました。国内の共産主義の広がりに対抗して台頭した軍事政権は、新憲法の制定で政治権力を支配し、メディアの検閲により言論を規制し、政府に反対する者を暴力で弾圧しました。それへの反発から立ち上がった民衆の中から、労働組合や学生などの様々なセクターによる反政府運動が出てきました。

そのような激動の時代の中で、反政府運動に参加した日系人がいたとき、日系社会の多くの人々はそれらの日系人の行動を警戒しました。反政府運動を行った日系人はブラジル社会の変革を目指した人々でしたが、政権を支持して社会の上層階級に歩み寄ろうとしていた日系社会の多くの人からそのような政治行動は理解されず、疎外に苦しむ状況が生まれました。邦字新聞の言説分析や、その時代を生きた日系人の聞き取りをもとに以上のような分析を試みてきました。

その人の立場になって、その人の視点で理解する

 上述のようなブラジル日系人の各時代の政治参加を分析するためには、それぞれの立場の人の考えを、それぞれの立場に立って理解することが必要とされます。歴史を深く探っていくと、現代の常識や感覚では到底理解できないことに直面します。そのような場面では、時間と共にどれほど社会の考え方や通念が変化しているのかということに気付かされます。しかし、そのような時にこそ自分の持っている先入観を打ち捨て、研究対象に向かうことで、初めてその時代のある人々が取った立場や行動の理由を真に理解することができるようになるのです。このような考え方から、様々な日系人の視点に立ってブラジルの歴史を再考することを目指しています。

 

今回紹介したのは、ナショナルな政治を舞台とした場合のブラジル日系人の政治参加の例ですが、州や市などの地域を単位とした、ローカルなレベルでの政治参加を観察する場合には、また異なる様相が見えてきます。一方、他の時代、他の地域・国、他の民族のエスニック・マイノリティの政治参加を観察した場合にも、類似のモデル・マイノリティの性格を見ることができるかもしれません。そのため、エスニック・マイノリティという観点からの政治参加の分析には、大きな可能性があると考えています。

 

氏名:長村裕佳子(2019年度博士後期課程満期退学)
所属:外国語学部特別研究員
紹介した研究:ブラジルにおける日系人の政治参加)