授業紹介:国際政治経済論(経済学的アプローチ)2
教員からのコメント Comment of Professor
これまで多大な国際協力、援助が行われてきたにも拘わらず、未だに全世界の73%の人は、一か月約5万円以下の生活を強いられています。そしてこの実数はこの20年間で増加する一方です。しかも富裕国と貧困国との格差は一貫して拡大し続け、先進国における貧困層も近年急増しています。なぜでしょうか。SDGsなどの国際的な取り組み、国際協力、援助はまったく無意味なんでしょうか。
この授業では、国際政治経済的諸問題の中で、私が最も関心がある貧困と格差の問題、そして貧しい人々が如何に発展していくのかを皆さんと一緒に考えていくことができればと思っています。
アマルティア・セン(1998年ノーベル経済学賞受賞)は、「貧困とは単に所得の低い状態を示すのではなく、自由を剥奪された状態を意味する。そしてdevelopment(発展)とは、貧困者が自由を取り戻すプロセスを示す」と説きます。この考えは大きなヒントです。
私たちは、国際協力、援助をする際、先進国側、援助側といった外部者の視点で考えがちです。しかし、貧困の中にいるその人自身の視点で考えることが重要なのです。貧困者自身の視点で同じ現実を見ると、まったく違うように見えてきます。例えばスラムは外部者の視点では、解決しなければならない問題かもしれませんが、スラム住民にとっては、農村が疲弊して生き延びることができないから都市にでてきて、一人では生きていけないからスラムを一緒に形成しているのです。つまり彼ら自身にとって、スラムは問題ではなく解決(の一歩)です。
授業では、貧困問題の概説をしたうえで、私自身が実際にしばしば訪問をしているアジア各国のスラムの人々の現状を紹介します。ただ、その際スラムが悲惨であるという側面よりも、スラムの人々、貧困者自身の様々な創意工夫のある試み・主体的運動をお話しし、そこに光と可能性があるというメッセージを皆さんに伝えたいと思っています。私自身は、そこに先進国自身も学ぶべき光が存在していると思っています。
学生からの声 class interview
本講義では「貧困」をテーマに授業が展開されます。一般的な経済学の原則では格差が生じることは仕方ないとされていますが、なぜ現代の格差はあまりに行き過ぎているのかを様々な理論を学びながら究明します。講義を通して格差はもはや途上国の問題ではなく日本でも、かつ世界的に現在進行しつつある深刻な問題だということを実感しています。
同教授の前期の授業(経済学的アプローチ1)を履修した際に経済学の面白さに目覚め、続くこの授業も迷わず履修を決定しました。また教職課程の履修を通して、学歴格差や子どもの貧困に興味を持ったためこの講義がその問題の原因究明につながるのではないかという期待もありました。
貧困の一番の問題点は、私たちがイメージする経済的困窮ではないのです。本講義を通して、貧困とは選択肢の自由が奪われることにより一人一人が持つ能力が生かされず、結果として社会全体が凋落してしまうということを実感しました。加えて教授のスラム街での交流や現地の人々とのエピソードを耳にすることも非常に興味深かったです。
ここで授業を受けること自体、いかに自分が恵まれている立場にいるかということを実感しています。本校のモットーでもある「他者のために、他者と共に」を実現するべく恵まれた機会を自分のみならず他者のために使いたいと切実に思っています。
(城谷早生 2年次 総合グローバル学部)
この授業では主に「貧困」について学んでいます。貧困とは単にお金がないことを指すのではないことを学び、その上で、では貧困に対してどういったアプローチが必要なのか、国連や世界銀行などが発表するデータを我々はどのように評価する必要があるのか、ということを学んでいます。
経済学と聞くと以前までお金儲けをしたい人が学ぶ学問だと思っていましたが、この授業のシラバスを読んだ際に発展途上国の貧困問題の概説を貧困者の視点から学べる、とあり、貧困や発展に関心がある自分にとって学ぶべき分野だと思い、履修することに決めました。
他の学生が疑問に感じてコメントペーパーに残すものを次の授業の初めに説明してくれるため、自分だけでは気が付けないような点にも言及をしてくれることは魅力の一つです。さらに、先述した国連や世銀などが出す数値を途上国の現実を見た経験のある先生がクリティカルな視点から説明してくれる点も魅力の一つです。
来年度から下川先生のゼミで経済学のことを学んでいけることが決まりました。卒業論文のテーマなどはまだ暫定的にしか決まっていませんが、自分の関心地域であるアフリカの貧困や発達を学び、論じる際に活かしていくと同時に、数値を鵜呑みにすることなく一歩立ち止まって現状を理解する姿勢を大切にしたいです。
総合グローバル学部に入ったら、どの時期でも良いと思います、世界の現状を把握するために履修することを強く推奨します。
(和田悠花 2年次 総合グローバル学部)