授業紹介

授業紹介:中東近代史A

担当教員:山口 昭彦
カテゴリ:専門(300番シリーズ)
レポート日:2023/05/17

教員からのコメント Comment of Professor

マイノリティー(少数派)という存在はどの社会にも多かれ少なかれ存在しています。彼らは多数派によって差別されたり迫害されることもあれば、社会の中でゆるやかに統合されている場合もあります。実際、少数派が社会の中でどのような地位を占めるかは、当該社会の構造や成り立ちに大きく依存しています。したがって、少数派のおかれた状況に目をこらすことで、多数派を含めた社会全体の有り様がより鮮明に見えてくることがあります。そうした問題関心から、この授業では少数派に焦点をあてて中東地域の歴史を見直してみることを目的にしています。「少数派から見た中東近現代史」という副題にはそうした意図が込められています。
古代文明以来の長い歴史をもつ中東地域では、さまざまな民族が往来し、また、いくつもの宗教が生まれてきました。そのため、一つの国のなかで、あるいは一つの町や村のなかで、異なる言語を話し、異なる宗教を信じる人々がともに暮らすということもめずらしくありません。こうした民族的宗教的多様性のために、中東各地では民族や宗教をめぐる紛争や対立がたえないと考えられがちですし、実際、パレスチナ問題をはじめ中東地域においては民族や宗教をめぐる対立が繰り返されているのは事実です。ただし、言語や宗教の違いがすぐに紛争や対立にいたるわけではなく、それぞれ紛争にいたる歴史的背景や具体的な原因が存在しています。そうした問題の根源まで見通すことによって、はじめて解決のあり方も見えてきます。
この講義では、近代以降の改革や国民国家の形成といった変動の中で、少数派とされた集団がどのような状況におかれていったのか、かれらの政治的社会的統合をめぐってどのような問題が生み出されていったのかを考察しています。具体的事例として、トルコ、イラク、イラン、シリアなどにまたがって暮らすクルド人を取り上げています。クルド人というのはクルド語という独自の言語を母語とする人々で、およそ3000万ほどの人口を抱える集団です。授業では、まずは近代以前のクルド社会がどのような社会であり、また国家によってどのように統治されていたのかを確認し、その後、近代以降の歴史的な変化の中でクルド社会と国家との関係、あるいはクルド社会自体がどのように変化し、それが今日のクルド人問題につながっていったのかを歴史的に考えます。中東地域に関心がある人はもとより、マイノリティー問題に興味がある人にも参考になるはずです。

学生からの声 class interview

この授業は、中東地域の近代史をこの地域の主要な少数派である「クルド人」という切り口から考察しています。具体的には、たとえば「近代以降、クルド民族主義はどのような背景から誕生してきたのか」、「それぞれの国はクルド人をどのように統治し、クルド人の側はそれをどのように受け止め、あるいは抵抗してきたのか」といった問いを詳細に検証し、広く中東地域の近現代史の理解に繋げることを目的にしています。
私自身、もともと中東地域に関心があり、自分の研究テーマを見つける上での手がかりが得られるかもしれないと思い、この授業を受講しました。実際、クルド人は中東地域のさまざまな国の歴史と結びついているので、彼らのたどってきた歴史は複雑ではあるけれども、それだけ学べることも多いと感じています。
一般にクルド人は「国家を持たない世界最大の民族」などと言われますが、この授業ではそうしたありきたりな印象に頼るのではなく、歴史的な視点を取り入れながらクルド人問題の背景や現状を深く理解することができるのが魅力です。
(総合グローバル学部3年生)

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