授業紹介

授業紹介:アジア文化遺産研究

担当教員:丸井 雅子
カテゴリ:専門(300番シリーズ)
レポート日:2023/01/13

教員からのコメント Comment of Professor

この授業は2年生以上が受講できる地域研究(アジア研究領域)の専門科目です。全学部の学生が受講可能ですが、毎学期約8割が総合グローバル学部生です。
現代社会には、様々な種類の遺産が存在しています。世界遺産、無形文化遺産、水中文化遺産、日本遺産、近代化産業遺産、地域遺産等、全てを挙げることは出来ません。その種類の多様性のみならず、文化遺産国際協力や文化遺産観光(ヘリテージ・ツーリズム)等のグローバル・イシューとしても遺産を取り巻く環境は複雑です。
この授業のねらいは、文化遺産は人が恣意的に創り上げた概念であることを先ず理解し、具体的には東南アジアの世界遺産や国指定文化財に注目しそれぞれの遺産の価値や機能を国家、市民社会、そしてグローバルという異なる階層で問い直すことです。文化遺産を通じてローカルとグローバルの関係性を分析できるような能力を身に着けることも、この授業の目的のひとつです。
2022年度は、カンボジア(世界遺産アンコール)、ベトナム(世界遺産ミーソン、ホイアン、タンロン等)、シンガポール(アジア・太平洋戦争期に関する博物館の展示や記念碑等)を取り上げました。
カンボジアのアンコール遺跡は、上智大学が1991年から本格的に調査と研究そしてアンコール・ワットの修復保存活動に取り組んできた経緯があり、我々ソフィアンにとって特別な意味をもつ遺跡です。上智大学によるカンボジアに対する一連の活動は「ソフィア・ミッション」と呼ばれ、実は1979年末に始まった「インドシナ難民に愛の手を」という難民支援活動と連動しています。上智大学はカトリックの大学としての人道的支援活動と同時に、困っている隣人(この場合はカンボジアからの難民)と真の友人になるべく彼らの歴史や文化を学問的に理解するための研究体制の充実化、そしてこうした研究をしっかりと学生への教育に還元させるという3つの柱を立てました。アンコール遺跡における上智大学の活動はまさにこれらを実践している場です。上智大学にとってアンコール遺跡は単なる国際協力や支援の場ではないのです。
このようないわば上智大学のレガシーを学生の皆にも伝えて残したいという思いから、このアジア文化遺産研究は開講されました。担当教員が考古学そして文化遺産教育という分野で長年アンコールに関わってきた中で蓄積してきた知を上智大学の学生と共有することを目指しています。この科目は上智大学の全学生が受講できますが、総合グローバル学部学生には、1年生の3つの必修入門科目(グローバル・スタディーズ、国際関係論、地域研究)を踏まえて文化遺産へどのようにアプローチできるのか、ぜひ自分の知の可能性に挑戦してもらいたいなと希望します。

学生からの声 class interview

私は東南アジア地域研究をメジャーにしようと考えていて、これまで歴史、政治、経済については学んできたので、文化遺産という異なる視点から東南アジア地域を見つめることによって新たな理解を得たいと思い、この授業を履修しました。
考古学や歴史学に関心がある人でないとつまらないのではないか、と思うかもしれないが、全くそんなことはありません。文化遺産という視点を通じて、政府や国家の意図や国際関係、地域社会の営みや国際的な市民社会運動の働きなど様々なレベルの動きが見えてきました。日本で東南アジアについて学ぶ学生としては欠かせない、歴史認識の話や、日本政府と東南アジア諸国政府がどのような関係を築いてきたかなどについても新たな視点から学ぶことができるのがこの授業の魅力です。また特に東南アジア地域について学ぼうと思っている学生にとっては、新たな興味関心やアプローチの方法をみつける機会にもなると思います。
この授業では、特にグローバルな視点(文化遺産を通した政府の意図、研究者らの動き、国際関係など)とローカルな視点(文化遺産の地域に暮らす人々の声や営み、国際的な市民社会運動など)を行き来して分析を見ていきました。どの学問分野においても、どのテーマにおいても、様々なレベルで問題を見ていくことは重要だと痛感しました。今後の自分の学びや研究にも生かしていきたいと思います。
(総合グローバル学部2年生)

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