授業紹介:トルコ語圏研究
教員からのコメント Comment of Professor
この授業は地域研究専攻の政治社会学系の専門科目であり、担当者が専門とするトルコ共和国を直接的題材にしています。そう聞くと、トルコについてマニアックな内容が続くと思われるかもしれませんが、この授業では、近代以降のグローバル化の中にトルコを位置づけて理解することで、より普遍的な視座の獲得を目指します。具体的には、近代帝国主義によるオスマン帝国の解体やトルコ共和国建国期までの人の移動や虐殺、国民アイデンティティをめぐる国内的対立、アメリカやEUとの関係や、グローバルサウスが台頭する時代の外交基軸のシフトなどを扱います。
このような方法をとることで、近現代が西洋中心主義的グローバル化の時代であることや、そのような時代が非西洋社会にどのように経験されてきたのかを批判的に理解できるようになることを期待しています。また、トルコは、非西洋圏とされながら西洋圏への統合を目指してきた地域大国として、日本とも比較可能な位置にあります。グローバルな勢力バランスのシフトがより顕在化しつつある今日、グローバルノースとグローバルサウスの両方の問題を映し出す鏡としてトルコ政治社会を理解することは、近現代を構造的に理解するために最適な方法だと言えます。トルコ語圏研究の授業が、近代以降の西洋諸国や非西洋諸国の政治や外交を理解するためのより普遍的な知的基盤を築くための一助になってほしいと思っています。
学生からの声 class interview
① 授業概要
この授業では、旧オスマン帝国、そしてトルコ共和国における政治的、社会⽂化的展開を、近代以降の⻄洋中⼼主義、帝国主義、植⺠地主義といった⽂脈のなかで考察することが⽬標とされています。「近代化の優等⽣」とされてきたトルコが抱える問題を踏まえ、⻄洋中⼼主義的グローバル化の負の側⾯についてこの授業では学ぶことができます。
② この授業を履修しようと思った理由
以前から中東地域に興味があり、昨年も澤江教授の中東政治論を受講し、もっと学びたいという思いがあったのが主な理由です。また最近ではトルコの⾼インフレや、対ロシア外交、⼤規模な地震の発⽣などと、トルコの政治経済状況に関⼼を持つきっかけも多く、この授業を通してより深く理解したいということで履修しました。
③この授業の魅⼒
この授業の魅⼒は、トルコについて細かく学び続けるのではなく、近代化や⻄洋化といった問題を問い直し、吟味していくためにトルコが抱える問題やその位置付けについて学ぶ点だと思います。別段トルコに興味を持っていない⼈であっても、履修して後悔しないと思います。
④この授業で学んだことを次にどう繋げたいですか
3、4 年次でのゼミでは欧州におけるクルド系住⺠について研究する予定です。クルド系移⺠・難⺠の送り出し国であるトルコの外交および国内政治は、欧州に暮らすクルド系住⺠とも密接な関係があります。本講義で学んだトルコにおける⺠族問題の展開や、トルコの外交舞台での⽴場などに対するまなざしを、これからの研究にもぜひ活かしたいと思います。
(デターク志⾨ 総合グローバル学部3 年生)
私は、この授業の大きな特徴として「トルコの政治や社会を事例に、国際社会で発生している事象を現在の世界において支配的な『西洋』的価値観とは異なる視点から考察する」点が挙げられると考えています。「西洋」と「非西洋」の狭間に位置し、複雑な歴史を有するトルコについて考えることで、普段私たちが何気なく捉えているものとは別の視座を得られることがこの授業の大きな魅力です。
トルコは、過去の歴史から「非西洋」として位置付けられる地域です。しかしながら、第1次世界大戦後に成立したトルコ共和国は、欧州で成立した国民国家体制の大きな特徴である世俗的国家体制を強く打ち出し、NATOへの加盟やEUへの加盟交渉を通じたトルコの「西洋化」を目指しました。一方、この方針はナショナリズムに基づく「西洋化」へのトルコ国民の反発やイスラーム復興をもたらしました。トルコは、これまで経験してきた歴史に基づく複雑な社会構造を有しています。
この授業でトルコの複雑な社会構造について学べたことは、トルコが抱える諸問題についてぼんやりとした知識で成り立っていた私の認識を改める機会になりました。また、この事例に対する学びを通じて、国際社会を見るための様々な視座を獲得する必要性を痛感しました。複雑な社会構造を有するトルコについて見識を深めることは、国際関係を分析する際に重要な「異なった視点を踏まえて事象を分析する」手法を身に着けるための貴重な機会になると思います。この授業で得られた新たな視座を自分の研究にも活かしていきたいです。
(井上寛隆 総合グローバル学部4年生)