卒業論文・卒業研究
卒業論文・卒業研究とは
総合グローバル学部では卒業年次の最終学期に卒業論文もしくは卒業研究を提出することが、すべての学生に求められています。その分量は、およそ20,000字(本文)です。学部や学科によっては、卒業論文がなかったり、書いても書かなくてもよい場合があるのに、何でそんなにたくさんの分量を書かなくてはならないのかと思う人もいるかもしれません。答えは簡単です。そもそも、総合グローバル学部の学びの全体が、卒業論文が到達点となるように、そして社会に出て行く学生の出発点となるように設計されているからです。
なぜ卒業論文・卒業研究を制作するのか
では、なぜ卒業論文・卒業研究が総合グローバル学部の学びの到達点となるのでしょうか。
総合グローバル学部で皆さんが学ぶ学問は「グローバル・スタディーズ」と呼ばれます。過去50年ほどの世界の急速な変化に対応すべく、既存の学問分野による取り組みを超えて、複合的で機動的な知の地平を切り拓く方法の一つとして構想されました。実際の研究は1990年代の末から取り組みが開始され、日本では上智大学がいち早く21世紀初頭に大規模な研究プロジェクトを立ち上げ、大学院グローバル・スタディーズ研究科の設置から、総合グローバル学部の開設へとつなげてきた分野です。
若い学問であるグローバル・スタディーズにはまだ、これが正解だという決まった答えもなければ、整然と積み上げられた全体もなく、何を対象とし、何を論じていくかもきわめて自由で柔軟な状況にあります。そこで求められているのは、がっちりと組み上げられた知識体系を習得し、それを現実に適用する応用能力ではなく、自ら主題を設定し、既存の学問から様々に学びながら自らの問いに答える方法を見出し、問いから答えにいたる自らの営為とその意義を他の人にわかりやすく伝える創造性の高い力を身につけることです。そしてそのような力を獲得するのに格好の知的成果物が、まさに卒業論文・卒業研究という形なのです。
卒業論文・卒業研究制作はいつ始まるのか
卒業論文・卒業研究の制作が、総合グローバル学部の学びの到達点である以上、その制作は入学と同時に始まると言っても過言ではありません。
実際に成果物としての卒業論文の制作に取りかかるのは、多くの場合には卒業年次に進んでからでしょうし、書き出すのは最後の学期が始まってからということが多いでしょう。しかし、卒業論文・卒業研究が本当の意味で総合グローバル学部での学びの到達点であるのは、それが最終年次に進む前にどれだけの研鑽を積み重ねてきたかに大きく左右されるためです。それまでに何を読み、何を経験し、何の授業でどんなふうに学んだかが、卒業論文・卒業研究に結実していくのだとイメージしてください。逆に言えば、入学してからただちに、どんな卒業論文・卒業研究を制作するのかということを目安として、自分の学びを組み立てていくことが大切になります。
そして、学部が展開する諸々の授業のなかでも、卒業論文・卒業研究の制作に直接に関わるのが、グローバル・スタディーズ基礎演習と自主研究、そして3年時以降に履修する主専攻(メジャー)の演習です。基礎演習は制作のための基礎的なスキルを身につける機会であり、そのスキルは年次が進む間に定着し、進化していかなくてはなりません。自主研究(independent studies)は2年次以降に履修でき、自分で主題を設定して指導教員を選定し成果物を制作するという点でまさに卒業論文・卒業研究制作の予行練習といえる科目です。総合グローバル学部では2年次に演習がないため、とくにその時期に活用することが推奨されます。さらに、3年次に履修する演習は指導教員や少数の学生たちとの切磋琢磨しながら、最終年次に卒業論文・卒業研究を制作するための準備を万全に整えるためのもっとも重要な機会です。4年次以降にも演習を履修することはでき、指導教員とよく相談しながら、卒業論文・卒業研究制作のために履修するか否かを検討することになります。
卒業研究の可能性
多くの学生が卒業論文を制作して卒業しますが、卒業研究という可能性が充分に探究されていないことは残念に思われます。グローバル・スタディーズという学問にどのように取り組むかについて、きわめて多様な可能性がある以上、到達点としての成果物も論文でないということももちろんありえます。大学での学びである以上、そこに何らかの知的な取り組みがあることは必須ですが、論文という表現形式をとる以外にも、自分にあった別の成果物の形があるのではないかという検討は、もっと積極的になされていいでしょう。
条件は、卒業論文制作と同等の知的な営為がなされることだけです。たとえば、学んだ外国語を活かして何らかの文学作品を訳してみるというのも卒業研究たりえますし、映像作品を作ってみる、グローバルな課題の解決に有用なアプリを開発してみるなど、創意工夫のあふれる学生の取り組みが卒業研究という形をとることを学部の教員たちは期待しています。そうした可能性の探究は他の学生、とくに後輩たちにとってよい刺激となるでしょうし、グローバル・スタディーズという学問のあり方を豊かにもしてくれるでしょう。
卒業論文・卒業研究の効き目
将来、研究者になることを考えている人にとっては、卒業論文は最初の本格的な論文であり、出発点というにふさわしいものです。では、研究者になるわけでもないのに、20,000字もある論文を書いたり、それに匹敵する制作物を作ることが何の役に立つのでしょうか。実は、大学に在籍している間も、そして卒業して大学を離れてからも、卒業論文・卒業研究を制作する・したことは、いろいろと皆さんの役に立ってくれるのです。
学びの道しるべとしての卒業論文・卒業研究
関心の赴くままに多種多様な授業を履修してみるというのも、大学における知的営為の重要な側面です。とりわけ1年次生のうちは、おそらく入学前にまったく知らなかったような学問の分野に接する機会を積極的に作っていくことはとても大切です。
その一方、総合グローバル学部の展開する授業は多彩で、しかも履修のあり方は他の学部に比べるとかなり自由度が高くなっています。さらに大学全体を見回してみれば、履修することのできる科目はそれこそ膨大な数に上ります。そのなかで、そのときそのときの興味や、あるいは楽に単位が修得できそうといった見込みを頼りに授業を履修していると、総合グローバル学部の学生の場合、卒業したはいいけれど、まとまった知的な構築は何も自分の中になされず、雑多にいろいろ知っただけに終わってしまうということが起きかねません。
卒業論文・卒業研究を最終的には制作することになるのであり、今の学びはそこに向かう助走であるという意識を心の片隅に置くことができれば、自分の学修に方向性を与えることが可能になります。その意味で、総合グローバル学部生は、最終年次に制作する卒業論文・卒業研究を射程に入れて履修を説得していく姿勢が有効です。
指導教員との交流
大学の授業はしばしばきわめて大人数で行われます。近年では双方向的な学び、アクティブ・ラーニングなどが強調されるようになってきましたが、それでも200名近い受講生がいる授業は、総合グローバル学部にもたくさんあります。これはひとつには、大学における学びが基本的には自主的なものであって、大人数での学びからでも自ら積極的に学び取ることが、大学生には要請されていることの結果でもあります。
一方、上智大学はそもそも少人数教育に重きを置いてきた伝統があります。そのため、大人数の授業を補う学びのあり方として、すでに言及したグローバル・スタディーズ基礎演習、自主研究、3年時以降の主専攻の演習が総合グローバル学部では用意されています。卒業論文・卒業研究の制作も高学年次の演習を基礎に展開する先生方も多くおられます。
そうした少人数教育の究極が、卒業論文・卒業研究の指導です。たとえ4年次に演習を履修していなくても、科目としての「卒業論文・卒業研究」を履修すれば、1対1で教員からの指導を得ることができます。総合グローバル学部に在籍している学生は気が付かないかもしれませんが、これは大学教育としては相当に贅沢な仕組みです。定期的な面談、原稿の提出とフィードバックといった流れのなかで、自身にとっての問題を探究していくのを指導教員が支援してくれるのです。その機会を充分に活かすことは、卒業後にも何らかの形できっと役に立つでしょう。
卒業してから
では、卒業してから卒業論文・卒業研究を制作したことはどんな役に立つのでしょうか。
そもそも、自分は研究者になるわけではないから、卒業したら論文を書くことはもうないと思っていないでしょうか。そんなことはありません。実際には皆さんの多くはかなり専門性の高い職に就き、その職業人として歩みの過程で専門的な論文を書くことになる、あるいは本を執筆することになるということが、そんなに珍しいことではありません。そのとき、すでに卒業論文・卒業研究を書いたことがあるという経験は必ず役に立ってくれます。
さらに、卒業論文・卒業研究を制作する過程で養われるいろいろな能力や姿勢もまた、社会人としての活躍に深く結びついています。社会人になって種々の専門的な文書を読みこなし、それらを自分の頭の中で整理して全体を捉え、活かすべき点と問題となる点を明らかにしていくことは、学生時代に様々な論文を読み込んでいく過程の延長上にあります。さらに、必要なことがらを調査し、それによって自分の主張を補強するという社会人として必須の能力も卒業論文・卒業研究制作のなかで磨くことができます。そして、そもそも皆さんが思っている以上に高い創造性を要求する様々な文書を、社会人もまた日々に書いているのであり、そこでも卒業論文・卒業研究制作の経験は役に立ってくれるでしょう。そもそも、長い文章を、構成をしっかりさせてきちんと書くということ自体が、貴重で有益な体験だということは、総合グローバル学部の卒業生に限らず、社会に巣立っていった多くの先輩たちが認めるところです。
学生時代だけに終わる課題としてではなく、将来に活かすことのできる経験として、卒業論文・卒業研究制作について考えてみましょう。
卒業論文制作の技法案内
卒業論文・卒業研究を制作するのに必要な資料は、主題により様々に異なるのはもちろんですが、卒業論文についていえば、主題に関係なく学問に(おおむね)共通の技法が存在し、これをアカデミック・スキルといいます。アカデミック・スキルとは言いつつも、社会に出てからも訳に立つ技法であることは、すでに述べたとおりです。そして、技法である以上、学修によって習得し、かつその能力はいくらでも高度化することができます。
グローバル・スタディーズ基礎演習で使用の教科書
アカデミック・スキルの基礎を学ぶ授業が、1年次秋学期に履修するグローバル・スタディーズ基礎演習です。この授業で使用する下記の教科書は授業で使うだけではなく、卒業に至るまで立ち戻って確認すべき技法の基本を教えてくれる本です。折に触れて読み直し、内容がしっかりと身につくように努めましょう。
佐藤望(編)『アカデミック・スキルズ:大学生のための知的技法入門 』第3版、慶應義塾大学出版会、2020年
総合グローバル学部・卒業論文 作成ガイドライン
総合グローバル学部では、毎年度、卒業論文執筆のためのガイドラインを配付しています。教学システムLOYOLAの学科・専攻別掲示板にある「各種申請書等について」という題名の圧縮ファイルに含まれていますので、最新のものをダウンロードして参照してください。
さらに、このガイドラインでは、グローバル・スタディーズ基礎演習の教科書より専門性の高い論文執筆技法に関する書籍を紹介しています。『アカデミック・スキルズ』の内容を充分に学んだ学生はそれらの書籍を参照すれば、さらに高度な技法を獲得することができるでしょう。