研究会・出張報告(2015年度)

   研究会報告

日時:2016年3月8日(火)16:00~18:00
会場:上智大学四谷キャンパス2号館6階615a教室

 本報告では、米国の公共圏の中で「イスラーム」あるいは「ムスリム」がどのように表象されているのか、表象を規定するフレーミングに着目をしながら考察するものであった。まず、報告者のMunir Jiwa氏は、ムスリムの芸術家を対象としておこなった過去の調査のなかで、9/11以降彼ら/彼女たちが、それまでのエスニック、文化、ジェンダー、あるいは美術史的なカテゴリーに加えて「ムスリム芸術家」という新たなカテゴリーに分類されるようになった状況を観察した経験を例に挙げ、米国における「ムスリム」というカテゴリーが政治的に構築されたマイノリティー分類の一つであることを確認し、そのうえで、このカテゴリーとしての「ムスリム」の表象を規定するフレーミングを、Jiwa氏本人がイスラームの「メディア五柱」と名付ける5つの特徴―①9/11②暴力/テロ/原理主義③ムスリム女性④イスラームと西洋⑤中東―にまとめた。これらはいわばイスラームに対する代表的なステレオタイプを項目化したものであり、いずれも客観的なデータなどに基づいたものではなくもっぱら感情的な認識であり、イスラームを西洋とは対照的な価値を有する「他者の」宗教とみなす前提的な理解に基づくものである。Jiwa氏は自身が取り組むイスラモフォビアに関する調査を踏まえて、上記のフレーミングがイスラームやムスリムに関する言説をいかに規定しているのか、多様な視点や事例などを紹介しながら説明した。
 質疑応答では、Jiwa氏の提示したフレーミングの妥当性や、報告では言及の少なかったメディアとの関わりなどに関する質問・コメントに加えて、ここ最近の米国におけるイスラーム/ムスリムをめぐる言説についてより全般的な事柄を含めた様々な質問がなされた。
 米国で高まるイスラモフォビアについてはメディアなどを通じて日本でもある程度認知されているものの、米国におけるイスラームやムスリムの現状については国内ではまだ十分な理解が進んでいるとは言えない状況であり、この点で本報告は専門家から現地の状況を学ぶことのできる貴重な機会となった。

     文責:高橋圭(上智大学アジア文化研究所客員所員)