研究会・出張報告(2014年度)

   出張報告


期間:2015年3月20日(金)~3月30日(月)
国名:イギリス(ロンドン)、エジプト(カイロ)
出張者:三代川寛子(上智大学アジア文化研究所客員所員)

概要:
 ロンドンおよびカイロにて、(1)イギリス政府の対コプト政策、(2)1910年前後のイギリスの新聞・雑誌におけるコプト関連の報道、(3)イギリスにおけるコプト関連の報道に対するエジプト側の反応について、資料収集を行った。  ロンドンでは、国立公文書館で、特にイギリス統治期(1882年~1922年)のコプト関連資料を重点的に収集した。当時のイギリス政府の公式な対コプト政策と、イギリスの研究者・宣教師らのコプトに対する見方や姿勢の違いが明らかになり、非常に有意義であった。  カイロでは、国立図書館(ダール・アル=クトゥブ)の定期刊行物のアーカイブスで資料収集を行った。今回は停電は発生せず、マイクロフィルムの閲覧は可能であったが、スキャナーが利用不能ため複写を取ることはできなかった。また、紙媒体の定期刊行物のうち大判のものはスキャナーで複写を取るが、この大型スキャナーも利用不能であった。職員に確認したところ、これらのスキャナーの備品の供給が滞っているため1か月半前から利用できない状態が続いているとのことで、今後もこの問題が長引く可能性がある。また、動かなくなってしまった可動書棚に収納されているため取り出せず、閲覧不可の資料が複数存在するが、この問題も解消されていないままであった。  今回カイロでは、1910年前後のイギリスの新聞におけるコプト関連の報道に対するエジプト側の反応を調査した。先行研究で言及があるものもないものも含めて多くの重要な記事が見つかったが、複写を取ることができず、カメラによる撮影も禁止されているため、歯がゆい思いであったが、最も重要なもの数点については手書きで書き写し、残りは次回のために書誌情報のメモを取るにとどめた。  アフラーム新聞社のアーカイブスでもエジプトの主要な定期刊行物の複写を購入することができるが、マイクロフィルムの閲覧は不可で、記事の内容を確認した上で複写を依頼することができず、かつ一枚50エジプト・ポンド(750円ほど)と高額なため、今回は国立図書館で記事の内容を確認する作業を優先した。  滞在中、リビアで「イスラーム国」に忠誠を誓う組織に殺害された21名の犠牲者(20名がコプト、1名はチャド出身のキリスト教徒)の40日忌が総主教座で行われており、テレビでその様子を視聴した。エジプト政府側からは大臣数名およびカイロ県知事らが参列しており、エジプト政府としても40日忌を実質的に公式行事として、そして「テロとの戦い」の下の団結を示す行事として位置づけている様子であった。また、コプト教会は2月中には彼らを殉教者として列聖しており、彼らの殉教を讃える聖歌やイコンが作成され、コプト系のチャンネルで繰り返し報じられるなど、犠牲者が現代の殉教者・聖人として位置づけられていることがうかがえた。
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文責:三代川寛子(上智大学アジア文化研究所客員所員)