研究会・出張報告(2014年度)

   出張報告


日程:2015年3月8日(日)~3月16日(月)
用務地:アメリカ
出張者:高橋圭(上智大学アジア文化研究所客員所員)

 概要:
 本調査では、北米におけるスーフィズム・聖者崇敬研究に向けた予備調査の一環として、(1)現代北米ムスリム研究の動向の把握、(2)特に北カリフォルニアにおけるムスリム・コミュニティの現状調査、(3)現地の研究機関との連携に向けた打ち合わせに取り組んだ。なお、調査に当たっては、バークレーの神学大学院連合(Graduate Theological Union)附属のイスラーム研究所(Center for Islamic Studies)と事前にコンタクトを取り、滞在中はここを拠点に調査活動をおこなった。
 (1)まず調査者は、イスラーム研究所所長のM. Jiwa博士、ザイトゥーナ・カレッジ(Zaytuna College)のH. Bazian博士、M. Mirza博士等との意見交換、また神学大学院連合附属図書館での調査などを通じて、現代北米ムスリム研究の現状と課題についての知見を深めた。調査者の印象としては、現代北米ムスリム研究の動向は、北米社会の中でムスリムが直面する様々な課題と直結しており、その点で学術的な関心だけでなく、より実践的な問題解決への志向が強く働いていることが特徴的である。
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      (イスラーム研究所のある建物)

 (2)Jiwa博士を始めとする現地研究者の人脈を通じて、バークレーを中心とするサンフランシスコ周辺地域におけるムスリム・コミュニティの調査をおこなった。バークレーのムスリム・コミュニティの拠点として機能しているバークレー・モスクへの訪問や、ムスリムたちの私的な会合への参加などから、北米社会の中でムスリムがどのようにコミュニティを形成し、活動をおこなっているのか、限られた例ではあるが、その実態面についての理解を深めた。中でも特に調査者が注目したのが、2009年にアメリカ合衆国初のイスラーム高等教育機関として創設されたザイトゥーナ・カレッジである。その教育の実態や成果について現段階ではまだ評価を下すことはできないが、このような教育機関が北米の教育制度の枠組みの中で創設されたことの意義は大きい。これは北米のムスリムが「自前で」イスラーム教育をおこない、その知を(北米社会の文脈で)継承・発展させることのできる段階に至ったことを示していると解釈することができる。加えて、これはイスラームの知が近代教育制度の中でどのように継承されていくのかを考える上でも興味深い事例であると言えるだろう。
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         (ザイトゥーナ・カレッジ)                              (バークレー・モスク)

 (3)Jiwa博士と面談を重ね、上智大学拠点と京都大学拠点が連携して推進する「スーフィズム・聖者信仰研究会」と、イスラーム研究所との研究協力・連携体制の整備について話し合いをおこなった。長期的なプランを含め、様々な提案があったが、まずは「スーフィズム・聖者信仰研究会」の活動へのJiwa博士の参加を依頼する形で進めていくことで合意した。

文責:高橋圭(上智大学アジア文化研究所客員所員)