研究会・出張報告(2014年度)

   研究会報告

日時:2015年3月14日(土) 15:00~17:00
会場:上智大学・2号館510会議室
講師:Mohammed Hachemaoui(フランス・IREMAM研究員)
講演タイトル:Algeria: Corruption of a system or a system of corruption?
コメンテータ:浜中新吾(山形大学・准教授)

報告内容

1.Hachemaouiまず、政治学における汚職研究は、他のテーマと比べて遅れている、という事実を指摘した上で、その理由として(1)アラブ地域では、他地域に増して汚職は研究対象にしづらいこと、(2)他地域と比べ、アラブ世界において資料へのアクセスがより困難であることが説明された。
2.続いて、政治問題としての腐敗に関する分析枠組みが説明された。それによれば、これまで汚職研究には以下のようなアプローチや特徴がみられる。
冷戦終結後、汚職を国際的枠組みで理解する総合的アプローチ。腐敗を不完全な経済自由化による症状とみる視点。賄賂やレント・シーキングに還元する傾向や現象の多様性を軽視する傾向。腐敗の「程度」に焦点を絞って、①政治領域で腐敗がシステム化されている場合、と②腐敗した利益交換が稀な場合、とに分けて両者を同等に扱うべきではない、とする考え。
 他方、腐敗は先進国にも途上国にも普遍的に存在するものであり、腐敗を非民主主義体制に固有なものとする考え方を批判した。そして「政治体制」という独立変数を細分化していくほど、腐敗の現象も多様になる、と指摘し、以下のようなタイポロジーを提起した。
 ・市場民主主義体制    →公的制度を通じた私的利益の増加
 ・自由主義的権威主義体制 →経済全体のある部門の監督権の掌握
 ・絶対王政        →支配家系が政府支出の大部分を独占
 ・一部の体制下では腐敗が暴力の代わりとして機能、他の体制下では暴力と密接な関係
 ・一部の体制下では賄賂が中心、他の体制下では財政や税関での不正が中心

3.報告者は、アルジェリアにおける腐敗問題を分析するために、システム化された腐敗、すなわち政治経済プロセスに組み込まれた腐敗、という問題を提示した。アルジェリアにおいては、独立以降の相次ぐ制度的変化にもかかわらず、その政治プロセスは、常に軍の最高司令部(プレトリアン:親衛隊)が実権を握ってきた。親衛隊による体制の掌握が、アルジェリアにおけるゲームのルールを作り、独立以降の様々な政治的変化は、全て親衛隊によるものであった。大統領の「裏での」任命・罷免・暗殺などが行われてきたのである。こうして「国家の中の真の国家」と呼ばれる「諜報治安局(DRS)」が強化され、ブーテフリカ大統領の下で数回にわたって実施された国民投票も「見せ掛け」の政治にすぎない。それは、システム化された腐敗によって成り立つ親衛隊(プレトリアン)体制を隠すためであった。
  かくして親衛隊の権力は軍の領域を越え、全ての国家機関や、政治経済など市民活動全般に浸透していった。また、親衛隊の権力は、国家指導者や政府の指名だけでなく、諸外国との貿易・金融取引をも指揮した。そして秘密警察が常に、親衛隊の「留保された(保護された)領域」をコントロールしているのである。  以上の報告に対し、コメンテータの浜中氏からは主として理論面からコメントがなされた。

 文責:私市正年(上智大学・教授)