研究会・出張報告(2014年度)

   出張報告


期間:2015年3月6日(金)~3月14日(土)
国名:インドネシア、シンガポール
出張者:小林寧子(南山大学外国語学部教授)

概要:
 今回の出張は、ジャカルタ5泊、シンガポール2泊、機中1泊とやや短かったが、いくつかの収穫があった。
 まずジャカルタで3日間、国立図書館の雑誌閲覧室で、1920年代から30年代のイスラーム系定期刊行物を数点閲覧した。今回は特に「変わり目」の雑誌を重点的に見た。イスラーム改革派団体ムハマディヤは1915年以来機関誌をジョクジャカルタで発行しているが、その会員はそれとは別に各地でいくつかの定期刊行物を発行している。宗教記事のみならず、時事問題等を扱い、後者の占める割合が時とともに大きくなり、また紙面もアピール度の高いものに徐々に変化していくのが見て取れた。このような試行錯誤が重なって、1932年の全国大会で新聞の発刊が決定されたと考えられる。同年10月に新聞Adil(『公正』)が創刊されたが、のちには週刊誌となり日本軍占領直前まで発行された。イスラーム定期刊行物は通常短命であるが、比較的長い期間にわたり発行された点でも貴重な資料である。また、このようない一般読者を対象とする定期刊行物の出現には、運動体にコミットしない「不偏」のジャーナリストを標榜するMaradja Sayuti Loebis の発行したPersatoean『統一』(のちにDewan『議会』)の刺激があったのではないかと推測するが、この点に関してはもう少し検討が必要である。
 図書館休館日の日曜日、ジャカルタの目抜き通りの歩行者天国では、「言論の自由」を謳歌する人々の熱気にあふれていた。丁度「国際女性デー」(3月8日)でもあり、女性労働者の問題でアピールするマーチングがいくつもあってにぎやかだった。また、ジャカルタ州議会と対立しているアホック州知事を支持するグループと反対するグループが鉢合わせる場面もあったが、衝突は起きなかった。インドネシアの民主化は定着へと向かっている。
 シンガポールではISEAS(東南アジア研究所)とARI(シンガポール大学アジア研究所)を訪問し、図書館やそれぞれの研究所の出版物を見た。現在そして今後もこの二つの研究所が東南アジア研究で果たす役割は大きいと思われる。特にARIでは以前に上智大学で講演したMichael Feener博士(インドネシア・イスラーム研究)と意見交換ができて、非常に有意義であった。また、第2次世界大戦の史跡をいくつか見学したが、イギリス植民地の有り様を考えるひとつの手掛かりにできそうである。

文責:小林寧子(南山大学外国語学部教授)