研究会・出張報告(2014年度)

   研究会報告


日時:12月6日(土) 13:30~17:30
場所:上智大学四谷キャンパス中央図書館6階612号室(アジア文化研究所図書室)

 本勉強会ではまず、川島緑氏(上智大学)が「上智大学アジア文化研究所所蔵東南アジアキターブ・コレクション紹介」と題して報告を行なった。川島氏の報告によると、第1期(2007-2009年度)に収集したキターブ約1900タイトルは第一次カタログに収録され、アジア文化研究所図書室に収蔵され、現時点で9割以上がOPACに登録済みである。また、第2期収集分についてはカタログ作成の準備中であることが報告された。
 次いで、小河久志氏(大阪大学)が「バンコクでのキターブ収集報告」を行なった。小河氏は、バンコク市及びその周辺域のイスラーム書店、イスラーム書籍の印刷所、大学図書館を訪問し、キターブ収集を行なった。収集期間は、2014年2月7日~19日である。なお、氏のキターブ収集は、第2期収集の一環として行なわれたものである。小河氏の報告によると、タイのムスリム(約322万人、全人口の約5.2%)の約70%が深南部3県(パッタニー、ヤラー、ナラティワート県)に集住している。本来であるならば、これら3県でキターブ収集を行なうのが望ましいが政情不安の関係もあり、小河氏は今回、バンコク及び周辺域の書店でキターブ収集を行なった。小河氏は本報告において、バンコクを中心に国内、マレーシアにまで広がるキターブのネットワークの存在、深南部でのキターブ調査及び収集の必要性などを指摘した。
 続いて、菅原由美氏(大阪大学)が「イスラ・ミラージュ物語の比較研究に向けて」と題して報告を行なった。菅原氏の報告は、東南アジアで形成・発展を遂げたイスラ・ミラージュ物語の比較研究を行なうための史料の検討を主たる内容とするものであった。氏の報告によると、イスラ・ミラージュ物語を伝えた史料は16世紀から20世紀にわたって書かれた。言語としてはジャワ語、マレー語、スンダ語、アラビア語など多岐にわたる。内容としては、比較的初期(18世紀前半頃まで)に書かれた史料には、ムハンマドとイエスが主要な登場人物となるとともにジャワ的な脚色やジャワ王宮の宗教思想なども物語の中に多く見られる。18世紀末以降、より原典に近いものが好まれるようになり、1930年代以降、アラビア語のキターブの出版が増加する。氏の報告後、ミラージュ物語の比較研究を進めるうえでどの史料を主たる分析対象とするかで議論となり、パタニー(1845頃没)のマレー語版の分析をまずは進めることで意見の一致を見た。

文責:茂木明石(上智大学アジア文化研究所客員所員)