研究会・出張報告(2014年度)

   研究会報告

主催: スーフィズム・聖者信仰研究会(KIAS/SIAS連携研究会)
共催: 科学研究費補助金基盤研究(B)「近現代スーフィズム・聖者信仰複合の動態研究」
     科学研究費補助金基盤研究(B)「南アジア諸語イスラーム文献の出版・伝播に関する総合的研究」

日時:9月27日(土)~9月28日
場所:東洋大学箱根保養所

 本研究合宿では、まず井上貴恵(東京大学)が、「預言者・聖者論から見たルーズビハーン思想の展開に関する一考察」と題して、12世紀のセルジューク朝で説教師として活躍したスーフィーであるルーズビハーン・バクリー・シーラーズィーの思想についての発表を行った。そのなかでは、「エリート主義的」な自負を伴ったルーズビハーンの特徴的な思想が、彼の『酔語注解』などの著作をもとにして説明された。さらに、井上は、先行研究においては、彼の「愛」の教義にことさら関心が集まっているが、「愛」の教義は彼の預言者・聖者論中に取り上げられる特別な人々が持つ特性のひとつであり、あくまでも彼の教義の根本には預言者・聖者論が置かれているため、その視点から研究が進められることが必要であると指摘した。
 今松泰(京都大学)は、8月に実施された中央アナトリアの聖者廟調査についての報告を、多くの写真を使いながら行った。その報告内では、参詣者のほとんどが女性で占められる聖者廟(ピール・スジャーエッディン・イルヤース廟、アマスィヤ)や、近年になって急速に観光地化された聖者廟(ハジベクタシ廟など)などが紹介され、トルコにおける聖者廟参詣の多様さが浮き彫りとなった。
 次に、黒岩高(武蔵大学)、中西竜也(京都大学)が、それぞれ「清末以降の臨夏の政治・社会的文脈の中での門宦(スーフィー教団)と宗教儀礼の共有」、「寧夏のスーフィー教団とその儀礼についての調査報告」と題して、中国調査についての報告を行った。その報告内でも、写真、動画が使用され、視覚的に門宦(スーフィー教団)の拱北や儀礼についての説明が行われた。特に、中西発表では、門宦の初代シャイフのために行われたマウリド(生誕祭)の映像が流されたが、中国全土から廟に集まった数多くのムスリムとそこから測り知ることができるマウリドの規模、また廟内で行われるズィクル儀礼が強く印象に残った。
 最後に、Nile GreenによるSufism: A Global History (Chichester: Wiley-Blackwell, 2012)の第4章(From Colonization to Globalization (1800-2000))の文献発表が行われた。まず安田慎(帝京大学)が、19世紀から1950年頃までのスーフィズムの状況を扱う4章前半部について、次に近藤文哉(上智大学)が、1950年頃から20世紀の終わりまでのスーフィズムの状況と、4章の結論を扱う後半部について発表した。両者とも、Greenが出版やカセットテープなどの媒体の技術発展を非常に重視し、それがスーフィズムのグローバル化に貢献したとの見解をとっていることを指摘した。
 全体として、中東地域のスーフィズム・聖者崇敬に関して厳密な史料批判を行った発表と聖者廟参詣の多様さを指摘した報告に加え、中国におけるスーフィズム・聖者崇敬の現状の報告、さらに、グローバルヒストリーを視野に入れたGreenの著作の文献発表が行われたことによって、広範で多角的な知見を数多く得ることができた研究合宿だった。


文責:近藤文哉(上智大学グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士前期課程)