研究会・出張報告(2014年度)

   出張報告


期間:2014年8月29日(金)~9月7日(日)
国名:エジプト
出張者:福永浩一(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士後期課程)

概要:
 本調査では、「イスラーム運動と社会運動・民衆運動」と関連して、第一にスィースィー大統領就任後のエジプトの社会状況とイスラーム主義運動の実態の一端の把握、第二に王制期エジプトにおける政治思想・社会運動に関する文献閲覧と史料収集を目的とし、カイロにおいて現地調査を実施した。
 今回の出張では、まずカイロ市内のタラアト・ハルブ広場からアタバ、サイイダ・ザイナブモスク周辺の書店を巡り、主にイスラーム主義運動・思想史関連の書籍の所蔵状況を調べ、資料収集を行った。ムルスィー政権下の2012年以降、ムスリム同胞団関連の書籍は、多様な視点からの新規出版物や史料の新装本が一般の書店でも多く確認できた。しかし本調査の時点で宗教学・イスラーム思想系の著作が従来と同様か増加傾向にある一方で、同胞団については組織が非合法化された結果、僅かに営業が認められている系列書店以外では大幅に刊行物の数が減り、その内容もムルスィーの政策批判や政権崩壊の分析といった否定的な見解が目立つ印象を受けた。
 次にアハラーム政治戦略研究所を訪問して、アフマド・カンディール(エネルギー研究プログラム主任)研究員と意見交換を行った。同氏とはエジプトが直面する電気・ガスの不足の問題と、シナイ半島北部を拠点とするイスラーム武装勢力のパイプライン爆破や治安上の脅威との関連、および次期議会選挙の展望で、自由公正党のメンバーが個人資格で選挙への立候補が可能か否かの見通し等について議論した。
 また今回の出張では、近代エジプトの社会運動、初期同胞団の政治活動に関する史料調査のため国立図書館(ダール・アル=クトゥブ)を訪問した。1940年代のアハラーム新聞のマイクロフィルムを閲覧し、同時代のイスラーム主義系の定期刊行物の複写を入手した。本調査では主に第二次大戦前後の対英独立交渉を巡る新聞記事、反英闘争のデモ活動を主導した諸組織の論説に焦点をあて史料の閲覧を行った。
 カイロは表面的に平穏を保っているが、今年1月以来散発的に中心部で爆弾事件が発生している事もあり、軍や治安部隊の車両が市内各所に展開して警備体制が敷かれていた。特に今回訪問した国立図書館を含む公共施設、大学での写真撮影は厳しく禁じられ、緊迫した雰囲気が垣間見えた。また同胞団関係者の個人的訪問や有意義な聞き取り調査を実施できなかった事は、組織が厳しい弾圧を受けている状況下とはいえ、今後現地での調査計画を考える上での課題であると感じられた。

(文責:福永浩一・上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士後期課程)