研究会・出張報告(2014年度)

   出張報告


期間:2014年8月23日(土)~8月30日(土)
国名:トルコ
出張者:
Marc Toutant(トルコ・オスマン・バルカン・中央アジア研究センター(SETBAC・パリ)・研究員)
丸山大介(日本学術振興会特別研究員(PD))
遠藤春香(ロンドン大学東洋・アフリカ研究院博士後期課程)

(以下、SIAS以外の支出にて出張も共同で調査)
赤堀雅幸(上智大学総合グローバル学部・教授)
東長靖(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)
今松泰(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・客員准教授)
高橋圭(東洋大学・客員研究員)

概要:
 今回の出張の目的はトルコの聖者廟を参詣し、どのような人物が聖者廟に祀られているか、現地の人々が今日どういった理由で廟に詣でるのかを参与観察することであった。調査は2014年8月23日から8月29日の7日間にかけて行われた。この間トルコの東部を中心とした六つの町を訪れた。この報告書では三つの町に限って報告を行う。
①ハジ・ベクタシ
 この町の名は、ハジ・ベクタシというベクタシー教団の創始者に由来する。ここ20年程の間に急激に観光地化が進んだ場所らしく、ハジ・ベクタシの廟を囲うように博物館が建てられ、ベクタシー教団に関する展示品が並べられていた。人気の少ない長閑な小さな町に、多くの参詣者が押し寄せていたのは驚きであった。ベクタシー教団はアレヴィー派とのつながりが強いとされており、またアレヴィー派はシーア派に通ずるところがある。そのため町の土産物屋にはアリーに関連したグッズや、アタテュルク、ハジ・ベクタシ、アリーの三人の顔が描かれたタペストリーなどが見受けられたことは興味深かった。
②シヴァス
 シヴァスの町には大小含め多くの聖者廟が残っていた。中でも印象的だったのは、冷泉の湧き出る小高い山の上に立てられた聖者廟である。ここに眠っている聖者は元々勇猛果敢な兵士として知られ、この地で殉教し山の上に葬られた。その勇猛さが転じてか、今では男児を授かりたい家族が願掛けをしに訪れる場所となっている。また地元の人の行楽場所としても賑わい、山頂まで参詣に行き、そのまま山腹でピクニックやキャンプして帰る家族連れの姿が多く見られた。参詣と行楽とが一体となった活気のある聖者廟であった。
③アマスィヤ
 アマスィヤで興味を引いたのは、金曜礼拝の時間に女性たちがモスクではなく聖者廟に集うという光景であった。町には女性だけが詰めかける聖者廟が点在しており、金曜礼拝の時間が近づくにつれ、様々な年代の女性たちが小さい聖者廟の中を埋め尽くしていった。彼女たちは廟に集まって願掛けをし、そこで集団礼拝を行うようであった。廟の近くにはアラウィー派の宗教施設も見受けられ、トルコの多様で複雑な宗教性を垣間見ることができた。  今回訪れた聖者廟は人々の参詣の有無にかかわらず、どこもきれいに整備され丁重に扱われているようであった。トルコのイスラームについての理解を深めるためには、現在でも人々の間に根付く聖者廟参詣に関する考察が不可欠であろう。

(文責:遠藤春香・ロンドン大学東洋・アフリカ研究院博士後期課程)