研究会・出張報告(2014年度)

   研究会報告


日時:6月8日(日) 13:30~17:30
場所:上智大学四ツ谷キャンパス2号館(6階)603(総合グローバル学部会議室)

今井真士(日本学術振興会特別研究員PD)
「政治経済(学)的要因から政治体制論の系譜を辿る」

 本発表では経済の視点から権威主義体制論の系譜を概観することを通して、イスラーム主義運動やイスラーム主義政党の動態研究がどのように今後の理論発展に貢献できるのかその可能性が示された。
 近年のイスラーム主義運動・政党研究は、「急進的な社会集団は既存の政治システムに包摂されると穏健化する」という包摂・穏健化仮説と相容れるか否かという関わりだけに言及されることが多く、これらの研究は経済的な要因とは距離を置いていた。しかし、現在ではイスラーム主義運動・政党研究は比較政治学上の一つの研究分野として確立しつつある。つまり、イスラーム主義運動・政党研究が科学であるという観点に立てば、提示された仮説や理論は新たな観察や事例を持って反証・棄却されるという科学の基本的要件の「反証可能性」を備えなければならない。そのため、理論の発展上において既存の仮説や理論を確証し引用するだけという一部の比較政治研究や地域研究は理論的価値を持たないのではと説明があった。
 また、報告者は反証を経てきた理論発展の一例として、経済学的要因が体制の変動や存続にどのような効果を示すのかということに注目し、政治体制論の理論が今までどのように仮説反証を繰り返し発展してきたかを説明した。この政治体制理論は、報告者により①経済動向の盛衰、②富の再分配、③天然資源、④経済アクターという系譜で整理された。この体制維持や変動の分析に用いられた既存の経済的諸相の観点は、イスラーム主義運動・政党研究にも応用が可能である。例えば、①イスラーム主義運動・政党は経済成長・利益誘導の受益者なのか、②イスラーム主義運動・政党は経済格差をどう取り扱うのか、③天然資源が豊富な国とそうでない国のイスラーム主義運動・政党は行動に違いがあるのか、④イスラーム主義運動・政党は労働組合や財界団体と同じ振る舞いなのかというような問いが導出されるであろう。いずれにしても、理論に言及する研究は既存の仮説を確証・引用するだけでは不十分であり、反証することが理論発展には重要であることが強調された。
 本報告に関する討論では、浜中新吾氏(山形大学)が報告者の指摘した反証の重要性に対して共通の認識を示した上、ロベルト・ミヘルスの「寡頭制の鉄則」やスティーブン・ウォルトの「脅威均衡論」などが引用され、理論を精緻化するためにはその理論に対する追随者(フォロワー)の数も重要なのではないか、という指摘等がなされた。

文責:田中友紀(九州大学比較社会文化学府国際社会専攻・博士後期3年)