研究会・出張報告(2013年度)

   研究会報告


Date: Nov. 22, 2011
Venue: CNRS (Le Centre National de la Recherche Scientifique)
Coordination: AKAHORI Masayuki; Pierre-Jean LUIZARD, TONAGA Yasushi and Thierry ZARCONE

PROGRAM
9:30 Registration and Coffee
10:00 Opening:
AKAHORI Masayuki; Pierre-Jean LUIZARD ; TONAGA Yasushi; Thierry ZARCONE

Session 1: Sacred Sufi Objects in Saint Veneration
Chair: TONAGA Yasushi (Kyoto University)
10:15 KOMAKI Sachiyo (Takasaki City University of Economics)
“The Barelwi Movement and Its Influence on the Cult of Islamic Relics in Contemporary India”
11:00 Discussant: Pierre-Jean LUIZARD (GSRL - CNRS / EPHE)
11:15 Questions
11:30 Thierry ZARCONE (GSRL - CNRS / EPHE):
“Symbols and Rituals: Sacred Flags and Banners in Sufi Brotherhoods and at Saints Tombs”
12:15 Discussant: AKAHORI Masayuki (Sophia University)
12:30 Questions

Session 2: The saint and the Sufi
Chair: AKAHORI Masayuki (Sophia University)
15:00 NAKANISHI Tatsuya (Kyoto University)
“Sainthood and Numinous Texts: Why Did Chinese Qādirī Sufis Preferably Use Taoist Words?”
15:45 Discussant: Alexandre PAPAS (CNRS – CETOBAC / EHESS)
16:00 Questions

16 :15 Pierre-Jean LUIZARD (GSRL - CNRS / EPHE)
“The Kasnazaniyya Sufi Tarīqa in Iraqi Kurdistan (19th-20th Centuries): A Family Legitimacy through Sacred Lineage Rather Than through Tomb Cult”
17:00 Discussant: TAKAHASHI Kei (Sophia University)
17:15 Questions

18:00-18:30 General Discussion

開催主旨と概要
国際研究集会French Japanese seminar は、スーフィズム・聖者信仰研究会(KIAS/ SIAS連携研究会)と、CNRS(フランス国立科学研究センター)のThierry Zarcone氏、Pierre-Jean Luizard氏、Alexandre Papas氏とのあいだの長年の研究交流にもとづき、さらなる協力の推進を目的として、開催された。今回は、前年度に次いで2回目となる。“Saint Cults, Mausoleums, and Sufi Linages”と題し、前半はモノによって媒介される聖性について、後半はスーフィー教団の聖性について、研究発表とそれにもとづく議論がおこなわれた。

小牧幸代
“The Barelwi Movement and Its Influence on the Cult of Islamic Relics in Contemporary India”
小牧氏は、まず、インドにおいて20年ほど前から預言者聖遺物崇敬がブームになっていること、とくに預言者聖遺物に関する印刷物の増大・氾濫を指摘した。そのうえで、その背景として、次のような諸変化が考えられる、と論じた。第1に、1990年代のアフガニスタン・パキスタンにおけるターリバーン運動の隆盛や、デーオバンド派の伸長。第2に、インドにおける、市場の自由化による大衆消費社会の到来。第3に、コンピュータやインターネットの普及による印刷技術の発展。第4に、2000年にトプカプ宮殿博物館所蔵聖遺物コレクションの写真集が出版されたこと。第5に、インド商人による中国(とくに浙江省義烏)とのオーダーメイド取引の増大。これらに加えて、バレールウィー派が、預言者聖遺物崇敬ブームを後押ししている可能性を指摘した。
 ディスカッサントのリュイザール氏からは、インドの預言者聖遺物崇敬が20年ほど前からブームになっているとの指摘の根拠や、預言者聖遺物崇敬がなぜ他の地域に比してインドで顕著なのかといった問題が提起され、会場の議論に付された。

Zarcone, Thierry
“Symbols and Rituals: Sacred Flags and Banners in Sufi Brotherhoods and at Saints Tombs”
 ザルコンヌ氏は、スーフィー教団やムスリム聖者墓においてしばしば見られる、旗(ʻalam)や纛(tugh)の聖性、その淵源や展開について論じた。まず、ムスリム世界における旗、トルコ・モンゴル世界における纛、それぞれの伝統的意味・役割を確認した。また、仏教の聖者崇敬における旗の使用が、ムスリム聖者崇敬における旗や纛の使用に影響したことを指摘した。加えて、アフロ・ユーラシア各地のスーフィー教団やムスリム聖者墓における旗や纛の使用の具体例を紹介するなかで、旗や纛が聖者の魂と同一視され、聖者墓よりもむしろ旗や纛が崇敬されるようになるという興味深い現象の存在を指摘した。
ディスカッサントの赤堀氏からは、長野の御柱祭における柱の使用が引き合いに出されたうえで、スーフィー教団やムスリム聖者墓における旗・纛については、「旗」と「柱」の象徴的利用は別の現象であったものが後に結合していったという見方の方が適切ではないかといった観点が提起され、会場の議論に付された。

中西竜也
”Sainthood and Numinous Texts: Why Did Chinese Qādirī Sufis Preferably Use Taoist Words?”
 中西は、中国ムスリムのカーディリーヤ派関係者の漢語著作に、道教の言い回しが好んで用いられた背景を論じた。まず、カーディリーヤ派関係者の漢語著作のなかでもとくに道教的色彩の顕著な、楊保元『綱常』を取り上げ、同書が、道教の言葉を意図的・戦略的に用い、あくまでスーフィズムの教えを説こうとするものであったことを確認した。そのうで、カーディリーヤ派関係者が道教的表現を好んだ背景として、次の二点を指摘した。第1に、中国ムスリムのあいだで、優れたスーフィーが神仙としてイメージされていたこと。第2に、道教経典の聖性や秘教的性格が、スーフィー教団指導者の聖性確保に合目的的であったこと。
ディスカッサントのパパス氏からは、道教の言葉で説かれたスーフィズムの教説を誰が理解しえたのかという問題や、中国内地と西北部におけるスーフィズムの性格の違いが道教的言い回しの採用に影響したかといった問題が提起され、会場の議論に付された。

Luizard, Pierre-Jean
“The Kasnazaniyya Sufi Tarīqa in Iraqi Kurdistan (19th-20th Centuries): A Family Legitimacy through Sacred Lineage Rather Than through Tomb Cult”
リュイザール氏は、19世紀半ばに成立し、イラク、イランのクルド人地域に影響力を保持してきたスーフィー教団、カスナザニーヤにおける道統の聖性について論じた。まず、カスナザニーヤでは、初代シャイフの一族の者だけが、預言者との関係性を根拠にシャイフになりうると定められていることを説明した。加えて、カスナザニーヤのシャイフ家が、継承争いによって分派する際、自身の正統性を示すために、道統の操作が行われきた事実を指摘した。さらに、カスナザニーヤにおいては道統それ自体が神聖視され、道統をズィクルとして唱える儀礼が行われていることを紹介し、こうした事実・事例をふまえ、カスナザニーヤにおいては、聖者墓よりも道統こそが重要性・聖性を認められていた、と結論した。
ディスカッサントの高橋氏からは、19世紀に発展したカスナザニーヤの事例と、同時代の近代エジプトにおけるスーフィー教団改革の事例とのあいだの、共通性や異同について問題提起がなされ、会場の議論に付された。

文責:中西竜也(京都大学白眉センター・特定助教)