研究会・出張報告(2013年度)

   出張報告


期間:2013年7月21日(日)~8月22日(木)
国名:オランダ
出張者:小林寧子(南山大学外国語学部教授)

概要:
  今回の出張には二つの目的、1)植民地末期のイスラーム定期刊行物に関する状況を把握すること、2)カイロ在留のインドネシア人留学生に関する植民地文書の収集があった。
1)については、王立言語地理民族学研究所(KITLV、ライデン)で作業した。定期刊行物の出版状況をIPO(原住民及びマレー語中国系プレス概要:植民地政府住民読書関連問題局編集・発行、週刊報告)を1920年代後半からチェックした。定期刊行物そのものは、一部は原本やマイクロであるが、かなり限られており、また一つの雑誌・新聞も、全部揃っているものは極めてわずかである。今後は、ジャカルタの国立図書館に所蔵されている定期刊行物を丹念に当たる必要がある。
 2)については国立文書館(NA、ハーグ)で作業したが、建物が改修工事中であるため、通常の利用が制限されていた。そのため、すでに目星をつけていた資料の確認作業をするにとどめた。カイロのオランダ大使館関係の文書には、アズハル大学に留学中のインドネシア人学生の動向を監視した報告書があり、バタヴィアの総督府に勤務する原住民問題顧問官(イスラームの専門家)とのやり取りが特に貴重な情報と言える。
 また、ライデンではインドネシア・イスラームを研究するオランダ人研究者やインドネシアからやはり資料調査に来ていた若手のインドネシア研究者と意見交換を行った。週末を利用して足を伸ばしたベルリンでは、ZMO(現代アジア研究所)を訪問し、その活動や所蔵文献に関する説明を聞いた他、東南アジアの専門家と意見交換を行った。
 世界最大のインドネシア関係の文献を所蔵するKITLVは、ここ数年独立した研究所としての存続の可否が検討されていたが、筆者がオランダをあとにしたあとにその結論が知人のKITLV研究員から伝わってきた。それによると、図書は現在のKITLVの書庫に所蔵されるが、管轄は近くのライデン大学図書館に移管されるので、閲覧をする場所ではなくなる。KITLVの図書館員は失職し、研究員は統合研究所で研究活動を行うが、研究成果はKITLVの名で出版されるという。KITLVはコンパクトな空間でインドネシアに関するほぼあらゆる文献が手軽に閲覧でき、親切な図書館員のサービスで研究者にとっては研究意欲を養う「ホットスポット」でもあった。世界のインドネシア研究者が出会う場所ともなっていただけに、残念な組織再編である。

 文責:小林寧子(南山大学外国語学部教授)