研究会・出張報告(2013年度)

   研究会報告

Cosponsors:
・ Center for Islamic Studies at Sophia University (SIAS)
・ Center for Islamic Area Studies at Kyoto University (KIAS)
・ Studies on the Composite Dynamics of the Modern and Current Sufism
 and Saint Veneration in Islam (Grant-in-Aid for Scientific Research (B),
 JSPS: AKAHORI Masayuki, Sophia University)
・ General Research on the Publication and Transmission of Islamic Books in
 the South Asian Language (Grant-in-Aid for Scientific Research (B),
 JSPS: TONAGA Yasushi, Kyoto University)

*Professor Cook’s attendance at this workshop was made possible by the generous support of the Japan Society for the Promotion of Science (Invitation Fellowship Program for Research in Japan [Short Term]).

Date: 2nd June, 2013
Venue: Meeting Room (AA447), Research Bldg. No. 2, Kyoto University
Language: English
Organizers: AKAHORI Masayuki (SIAS, Sophia University), TONAGA Yasushi (KIAS, Kyoto University), IMAMATSU Yasushi (KIAS, Kyoto University), MORIMOTO Kazuo (SIAS, the University of Tokyo)
Secretary in Chief: FUTATSUYAMA Tatsuro (Kyoto University)
Commentator: Michael A. COOK (Princeton University, USA)

Program
Opening Session

10:30-11:00
First Session
11:00-11:30 YASUDA Shin (Teikyo University)
“Sadaqa in Religious Tourism: Gift Economy in Syrian Shi’ite Visits”
11:30-12:00 FUJII Chiaki (Osaka University)
“We Don’t Want Union! We Want Our Country!: Independence Movement in Zanzibar”
12:00-12:30 TOCHIBORI Yuko (Tokyo University of Foreign Studies)
“Between the Understanding about Christianity and French Occupation of Algeria: According to al-Amir ‘Abd al-Qadir al-Jaza’iri”
12:30-14:10 Lunch
Second Session
14:10-14:40 KUSHIMOTO Hiroko (Sophia University)
“Renewal of the Role of Saints through the Maulid Celebrations in Contemporary Malaysia”
14:40-15:10 SHIOZAKI Yuki (Doshisha University)
“The Controversy between Ahmad Hassan and Sayyid Alawi Tahir al-Haddad: The Conflict between the Traditional Shafi‘i School and Salafi in Southeast Asia in 1930s”
15:10-15:25 Coffee Break
Third Session
15:25-15:55 TOBINAI Yuko (Sophia University)
“A Study of the Revival Movement in Greater Sudan: From the Perspective of the Kuku’s Migration”
15:55-16:25 MARUYAMA Daisuke (Kyoto University)
“Clashes, Conflict and Contradiction: Sufi Power Struggles in Sudan” 16:25-16:40 Coffee Break
Concluding Session
16:40-17:00 General Comment by Michael A. COOK
17:00-17:15 Concluding Remarks

First Session
 第一セッションでは安田慎(帝京大学)、藤井千晶(大阪大学)、栃堀木綿子(東京外国語大学)の三名が報告を行った。
 安田氏は、シリアにおけるシーア派巡礼地でのサダカを中心とした贈与行為について発表した。シリアでのシーア派ムスリムを対象とした宗教ツーリズムの発展は、シリアの市場経済を活発化させ、さらに観光地で実践されるサダカが観光地の整備・拡張に寄与していることを明らかにした。また質疑応答ではCook氏がイラン人観光客と現地の案内人との意思疎通の問題について質問したが、氏は現地にはペルシャ語の堪能なシリア人がおり、彼らが観光客とコミュニケーションを取っていると回答した。

 藤井氏はタンザニアでのイスラーム運動団体UAMSHOの活動が何故、ザンジバル住民の支持を得ているのかについて発表を行った。UAMSHOはイスラーム国家樹立のために結成されたが、現在はタンザニアからのザンジバルの独立を中心に唱えるようになり、ザンジバルの議員達は公式にはUAMSHOを批判しているが、彼らは若年層の支持を得ておりザンジバル政府は彼らとの協力が必要になってくるだろうと指摘した。質疑応答ではUAMSHOが如何に政治的メッセージをイスラーム的価値観から正当化しているのかとの質問があった。

 栃堀氏は、フランスによるアルジェリア植民地化に反抗したアブドゥルカーディル・ジャザーイリーのキリスト教理解について発表した。まず氏はアブドゥルカーディルを含む大半のアルジェリア人はフランス人を不信仰者とみなし、敬虔なキリスト教徒とは認識していなかったことを紹介した。さらに氏は、アブドゥルカーディルはフランス人のカトリックの神父と書簡を交わす形でキリスト教思想に触れたが、アブドゥルカーディルは一貫してイスラームの伝統的なキリスト教理解を貫いており、特に彼のキリスト教、イエス理解に対して影響を及ぼすには至っていないことを指摘した。しかしそれはアブドゥルカーディルが当時のフランスとの政治的状況と宗教観を混同していないことを示しているとも指摘した。

(山本直輝・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科グローバル地域研究専攻)

Second Session
 第二セッションでは久志本裕子(上智大学)、塩崎悠輝(同志社大学)の2名が発表を行った。
 久志本氏はマレーシアにおける新しい形のマウリード(生誕祭)によって「聖者像」が如何に更新されるのかについて、議論を展開した。本来マウリードは預言者ムハンマドの生誕を祝い、更にマレーシアでは、結婚式や幼児の髪を切る際に、儀礼とされていたものだった。形式上は村のウラマーやイマームによる詩の朗唱に限られていた。しかし、近年に発生した現象として、理由および日程に関係なくマウリードが行われるようになり、形式も大きく変わった。通常の場合は晩餐後モスクに集まり、ウラマーを先頭に参加者全員で詩を詠む。多くのモスクではこのようなマウリードが「創造」され、儀礼の参加を通じて人々の聖者への関心が高まっていく。同じ場所が集いの場でもあり、地域間の情報交換も行われ、参加者の多くはSNSを利用し、マウリードの開催情報を得たという。新しいマウリードは本来のマウリードと共存を果たし、更に政治的な立場を一切拒絶するという立脚点から現在人気急増中である。極めて新しい現象であるため、今後の研究成果も大きく期待される。
 塩崎氏は東南アジアにおけるシャーフィーイ派学者サイイド・アラウィ・ターヒル=アル・ハッダッダとサラフィー運動に参加したアフマド・ハサンの間の論争から議論を展開した。アフマド・ハサンは1931年にイブン・ターミヤに深く影響されたファトワ解釈書を出版し、その反対者はアラゥイ派のウラマーであるサイイド・アラウィだった。1930年代マレー半島の南部において、オスマン帝国からの影響によって、シャーフィーイ派の思想が主流になっていた。しかし帝国の崩壊、共和制の確立と伴い、中東で広範な支持を得たサラフィー思想が東南アジアに受容されるようになった。本発表で取り上げられた二人のウラマーもその典型例として歴史の流れを物語っていた。

(Yu Weixing・上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士前期課程)

Third Session&Concluding Session
 第三部は、スーダンに関するセッションとなった。まず飛内氏が、南スーダンの一部族ククの人々におけるキリスト教信仰覚醒運動についての発表を行った。スーダン内戦時に多くが難民となったククの人々の間における信仰覚醒は、その理由などが徐々に変化していることを指摘した。ククの人々の「真の」キリスト教徒としての信仰覚醒は、ウガンダへの移民、スーダンの内戦や難民経験を通して、主にSRMが主体となって広まっていった。内戦後は、このSRMのプログラムを通して、新しい世代が信仰覚醒し、南スーダンにおいてリバイバリストになっていった。SRMを通して、キリスト教徒として信仰覚醒することは、以前の新しい人生を求めた世代とは違い、南スーダンに戻ってきたという経験とSRMの活動によって、信仰覚醒は新しい世代にとっては、異なる意味を持ち始めているとした。
 次に、丸山氏が、2010-2012年における北部スーダンにおけるスーフィーの政治態度についての報告を行った。スーダンのスーフィーは、シャリーアに基づくスーダン国家の建設と統一を目指し、政府を支持した。スーフィーは、その言説の中で、原則的に寛容と平和を重視している。これは、サラフィーとの対立の中で、より強調された。一方で、丸山氏は、スーフィーの原則と実践が乖離している状況が指摘できるとした。前者において、寛容と平和を推奨しているにも関わらず、現実においては、イスラームと非イスラームさらに「真の」イスラームと「偽の」イスラームとを選別し、「真の」ムスリムの統一を目指す方向に変化しており、スーダンの政治を動かすダイナミスムが、スーフィーの変化と分離と一致しているという結論を示した。
 最後に、ワークショップに対するマイケル・クック氏からの総括コメントがあった。コメントの内容は、プレゼンテーションの技術的なことに関するものと、全体の発表内容に関する総括のコメントの二つに分けられる。発表の技術に関しては、パワーポイントの使用、質疑応答の方法などに関してのコメントがあった。全体の発表に対するコメントでは、クック氏は、まず本ワークショップ全ての発表に共通する主題が、スーフィズムであるという考えを示した。そして、現在、イスラーム世界に対するペンテコステ運動があるとした上で、スーフィズムがイスラーム世界の中で見せる様相がどのように変化していくのかとコメントした。

(中村遥・上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士後期課程)