研究会・出張報告(2012年度)

   研究会報告


日時:2月2日(土)13:00~18:00
場所:上智大学四谷キャンパス2号館6階630a会議室

13:10-14:40 1. Masako SHIMIZU (Ph.D Student, Sophia University)
“Is the“Arab Spring” Relevant to Palestine? The Efforts and Impasses of the Unity Government”
Discussant: Darwisheh Housam (Institute of Developing Economies)
Chairperson: Yutaka TAKAOKA (Middle East Institute of Japan)

14:45-16:15 2. Masaki MATSUO (Utsunomiya University)
“Ethnocracy in the Arab Gulf States: From an Analysis of Labor Markets”
Discussant: Manabu SHIMIZU (Teikyo University)
Chairperson: Ken MIICHI (Iwate Prefectural University)

16:25-17:55 3. Zoubir AROUS (CREAD, University of Algiers)
“Arab Spring: A Revolution or Revolt? A Case Study of Algeria”
Discussant: Shoko WATANABE (Institute of Developing Economies) Chairperson: Takayuki YOKOTA (Nihon University)

【報告】

 第1の報告者である清水雅子氏は、競合的選挙を行う非民主制において「アラブの春」がより低い妥当性しか持たなかった背景を、パレスチナ自治政府の事例を通じて検討した。また清水氏は、事例分析を通じて、2011年の「パレスチナ国民和解合意」に伴う政治過程とその膠着を権力共有(power-sharing)の観点から捉え、パレスチナの事例を比較政治学の議論の俎上に載せることも目指した。まず清水氏は、権力共有が近年、非民主制下の競合的選挙後の危機の対処にために追及されてきたことを指摘した。次いで清水氏は、パレスチナの事例では、競合的選挙の成功と、主要な主体よる選挙結果の一時的な受け入れにもかかわらず、その後の危機への対処において権力共有政権が追求されることを説明した。そして清水氏は、権力共有の観点からパレスチナ政治を見ることは、2007年の自治政府分裂以降に目指された政府と憲法上の手続きに基づく連立政権との相違や、2011年以降のハマスとファタハの合意の間の相違、そして交渉における対立がある特定の論点をめぐって生じた背景を理解する上で有効であると述べた。最後に、清水氏は本研究の成果を比較政治とパレスチナ政治研究の文脈に位置づけた上で、「アラブの春」の政治変動への含意に言及した。

 第2の報告者の松尾昌樹氏は、クウェートとバーレーンにおける自国民と外国人労働者の労働分割を分析し、湾岸諸国の政治体制への関連性を検証した。松尾氏は最初に、湾岸諸国の政治・経済の基本的な特徴について概観を行い、国籍に基づくエスノクラシーの重要性を指摘した。そこで松尾氏は、統計資料を基に分析し、国営と民間の労働部門に加え、各部門の職種別での外国人労働者の割合を示し、次の2点を明らかにした。それは、(1)湾岸諸国の政府は自国民を国営部門に集中的に雇用することで、レント収入を分配し国民の支持を得ようとしていること、(2)部門間と職種間で国籍による分割を行い、自国民を少数特権的な「管理職」として、外国人労働者を管理させていること、である。また松尾氏は、オランダ病に苦しむ湾岸諸国にとって国籍による労働分割は、外国人労働者に製造業などに就かせ、自国民にリスクの生じる業種に従事させないためでもあると言及した。最後に松尾氏は国籍による労働分割の問題点として、国営部門では自国民を雇用するだけの資金の確保と、民間部門では生産性低下による企業への負担について述べ、民間部門の改善が湾岸諸国の現体制存続に必要であると結論付けた。

 第3の報告者であるアルース氏は、アラブ諸国での民衆蜂起や現在のアルジェリア政治について報告を行った。まずアルース氏は、既存勢力に代わり新たな社会勢力の下、アラブ諸国で今回の民衆蜂起が同発的で、水平的に拡大した点に言及した。次いでアルース氏は、1988年10月暴動を通してアルジェリアの事例を紹介した。アラブ諸国に先駆けて生じた1988年10月暴動は一般的に経済的不満が誘因であったとみられているが、アルース氏は、この出来事はFLN体制内の保守的な勢力が若者を扇動したことによって、発生したことを指摘した。その背景には、経済の自由化政策を推進していたFLNの改革派と、国営企業を軸に既得権益を形成していたFLNの保守派の間で主導権争いが大きな要因であるとアルース氏は説明し、最終的に改革派のシャズリー大統領は10月暴動により失脚した。最後にアルース氏は、2012年5月のアルジェリア国民議会選挙について、その結果や分析、今後の展望などについて詳細な検討がなされた。

文責:高橋雅英(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科・地域研究専攻博士前期課程)