研究会・出張報告(2012年度)
研究会報告- スーフィズム・聖者信仰研究会(KIAS/SIAS連携研究会)(2012年6月2日上智大学)
主催:スーフィズム・聖者信仰研究会(KIAS/SIAS連携研究会)
共催:
科学研究費補助金基盤研究(B)「近現代スーフィズム・聖者信仰複合の動態研究」
科学研究費補助金基盤研究(B)「南アジア諸語イスラーム文献の出版・伝播に関する総合的研究」
日時:2012年6月2日(土)12:00~18:00
場所:上智大学四谷キャンパス2号館6階630a会議室
発表:
12:15-14:00 二ツ山達朗(京都大学大学院)
「モノから考察する民衆のイスラーム―チュニジアにおけるオリーブとバラカの関係性から」
コメンテーター:赤堀雅幸(上智大学)・斉藤剛(神戸大学)
14:15-16:00 遠藤春香(京都大学大学院)
「統合的な完全なる者―シャリーアの源に着目して」
コメンテーター:鎌田繁(東京大学)
16:15-18:00 内山明子(京都大学大学院)
「現代イランにおける宗教的多様性―エマームザーデ参詣女性の語りから」
コメンテーター:鎌田繁・斉藤剛
①遠藤春香「統合的な完全なる者―シャリーアの源に着目して―」
遠藤春香氏の発表は、16世紀オスマン朝下で活躍した法学者であり、スーフィーでもあるシャアラーニーが目指した「完全なる者(完全な神秘家、完全な聖者)」とはどのような概念かを彼の著作から明らかにした。遠藤氏は、発表を通して、「完全なる者」になれた者こそが、最も根源的な法解釈である「シャリーアの源」へと到達可能であり、法学派の垣根を越えた法判断をなすことにより、共同体を統合し、導ける理想の人物になれる、というシャアラーニーの思想を説明した。会場からは、「完全なる者」や「シャリーアの源」をめぐって、活発な質疑応答がなされた。
②二ツ山達郎「モノから考察する民衆イスラーム―チュニジアにおけるオリーブとバラカの関係性から」
二ツ山達郎氏の発表は、現代チュニジアでオリーブにバラカが宿るとする事例を紹介することにより、従来聖者とバラカを結びつけて論ずることの多かった先行研究を再考し、モノに着目した新たなバラカ論の提示を試みた。二ツ山氏は、宗教的商品の中で表象されるオリーブの意匠や、オリーブの木をめぐる結婚の際に行われる儀礼、クルアーンによる説明、人々のオリーブをめぐる言説などを、自身の現地調査から紹介し、これらの場面で人々がオリーブを通していかにバラカを語るかを分析した。会場からは、オリーブ以外のモノとの違いや、他国とのバラカ概念の比較、モノを通したバラカ論を構築するための方法論をめぐって、多くの議論が交わされた。
③内山明子「現代イランにおける宗教的多様性―エマームザーデ参詣女性の語りから」
内山明子氏の発表は、現代イラン都市部で行われる女性の宗教実践の実態を、エマームザーデと呼ばれる聖者などの墓廟へ参詣する彼女たちの事例を通して描いた。内山氏は、現地調査による観察と聞き取りから、エマームザーデ参詣をする女性が、特定の墓廟を選択する理由と参詣の頻度、参詣中の行動などを整理し、イランにおけるエマームザーデの位置づけを考察した。会場からは、調査対象者の選別や背景への質問や、厚い記述へと語りをさらに深化させる民族誌的方法論について、イランや周辺国におけるエマームザーデの位置づけの補足など様々な意見が出され、宗教実践という内面をいかに理解し、記述するか及びイランのエマームザーデに関する知識を深める場となった。
今回の研究会の発表は、3本とも、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科グローバル地域研究専攻一貫制博士課程に提出された中間論文を基にしており、丹念な文献の読み込みや地道な現地調査の結果紡ぎだされたものであり、いずれの研究も今後の博士論文へ向けて、さらなる発展が期待される内容であった。
文責:岡戸真幸(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科・特別研究員(PD))