研究会・出張報告(2011年度)

   出張報告


期間:2012年2月26日(日)~3月8日(木)
国名:エジプト
出張者:横田貴之(日本大学・准教授)

概要:
 本調査では、上智大学拠点の研究課題「イスラーム近代と民衆のネットワーク」を念頭に、ムバーラク政権崩壊後のエジプトにおけるイスラーム主義運動の現状を調査することを目的とした。エジプトではカイロを中心に現地調査を実施した。現地では、人民議会選挙とシューラー(諮問)議会選挙が終わり、新憲法制定のための両院合同会議が開催されている最中であった。カイロ市中心部の人民議会周辺の道路が治安上の理由から封鎖されていることを除いて、調査はおおむね順調に実施できた。
 今回の出張では、まずアフラーム政治戦略研究所を訪問し、ディア・ラシュワーン所長とアフマド・カンディール上席研究員と意見交換をした。両氏と、両院選挙におけるイスラーム主義勢力の台頭、および憲法制定委員会や大統領選挙など今後の民政移行スケジュールの見通しについて議論した。また、イスラーム主義運動への訪問調査も実施した。カイロ市郊外に新設されたワサト(中道)党本部を訪問し、アブー・アラー・マーディー党首からエジプト政治に関する聞き取り調査を行った。軍最高評議会の諮問委員会副議長を務めた同氏からは、昨今の反軍政デモとそれに対する軍部の対応など、詳細な情報を得ることができた。また、カイロ市内の同胞団事務所を訪問し、関係者からの聞き取り調査を行った。彼らとのインタビューから、議会選挙における同胞団傘下政党「自由公正党」の躍進の背景に、同胞団が社会活動を通じて構築した支持基盤が存在することを強く感じた。
 今回の出張では、同胞団系書店での資料収集も実施した。前回2006年にカイロ市内の「イスラーム出版配布社」を訪問した際は、ムバーラク政権によって営業停止状態だったので、約5年ぶりの訪問となった。系列書店ゆえの貴重資料を収集できた。また、再会できた店員との談話から、過去5年間の同胞団の活動の一端を垣間見ることができた。
 また、タハリール広場周辺にテントを張る青年運動メンバーへの聞き取り調査も実施した。彼らからは、さらなる「革命」の必要性や軍最高評議会の退場要求などの政治的主張とともに、台頭するイスラーム主義勢力への懸念を聞き取ることができた。
 (横田貴之:日本大学・准教授)