研究会・出張報告(2011年度)

   研究会報告

Cosponsors:
・ Center for Islamic Area Studies at Kyoto University (KIAS)
・ Center for Islamic Studies at Sophia University (SIAS)
・ Studies on the Dynamics of the Religious Complex of Sufism and SaintVeneration in the Modern Era (Grant-in-Aid forScientific Research (B), JSPS: AKAHORI Masayuki, Sophia University)


[Date and Venue]
Date: 22 February 2012, 10:00-18:40
Venue: Room 508, 5th Floor, Bldg. No.2, Yotsuya Campus, Sophia University

[Organizers]
AKAHORI Masayuki (SIAS)
TONAGA Yasushi (KIAS)
IMAMATSU Yasushi (KIAS)
TAKAHASHI Kei (SIAS)
[Secretary-general]
TOCHIBORI Yuko (Kyoto University)

[Commentator]
Omar Farouk (Hiroshima City University)

[Program]
10:00-10:10 Opening
10:10-10:20 Opening Remarks: AKAHORI Masayuki

10:20-11:50 Part One: Struggles with Colonialism
Chair: AKAHORI Masayuki
・ 10:20-10:50 TORIYA Masato (Sophia University)
“The Patterns of the Legitimacy of Rule in Modern Afghanistan and Neighboring Area”
・ 10:50-11:20 SEKI Kanako (Sophia University)
“The Reconsideration of the Rif War in Spanish Morocco: Referring to the Discourse of Abd al-Karim al-Khattabi”
・ 11:20-11:50 TOCHIBORI Yuko (Kyoto University)
“The Contracts with Non-Muslims: The Peace Agreements and the Surrender of ‘Abd al-Qadir al-Jaza’iri”
11:50-12:50 Lunch

12:50-15:50 Part Two: Society and Religion in the Age of Globalization
Chair: TAKAHASHI Kei
・ 12:50-13:40 OKADO Masaki (Sophia University)
“Reproduction of the Locality through the Village Associations in Egyptian City: The Meaning of their Symbolic Hometown in Upper Egypt”
・ 13:40-14:10 OusmanouAdama (Nagoya University)
“The Changing Patterns of Muslim Cities: Case Study, Maroua the Fulani City (Northern Cameroon)” 14:10-14:20 Break
Chair: IMAMATSU Yasushi
・ 14:20-14:50 Reem Ahmad (Sophia University)
“Muslims in Japan and the Problems They Are Facing”
・ 14:50-15:20 UCHIYAMA Akiko (Kyoto University)
“Religious Strategy of Women in Contemporary Iran: Through Their VisittoEmamzade”
・ 15:20-15:50 FUJII Chiaki (Kyoto University)
“Efficacy of Mass Healing of the Prophetic Medicine in Zanzibar”
15:50-16:00 Break

16:00-18:00 Part Three: Tradition and Innovation in Modern Sufism
Chair: TONAGA Yasushi
・ 16:00-16:30 ISHIDA Yuri (Kyoto University)
“ShahWaliAllah’s Concept of the Spirit (Ruh)”
・ 16:30-17:00 NISHIYAMA Manami (Kyoto University)
“The Discourse of The Naqshbandi Order in the Developing Period: A Case of the Altinoluk(Altınoluk) Group”
・ 17:00-17:30 IdirisDanismaz (Turkey Japan Cultural Dialog Society)
“Sufism as a Tool of Intercultural Dialog: Case of "Sufi for a Month"Program Held in Turkey”
・ 17:30-18:00 KUSHIMOTO Hiroko (Sophia University)
“AjaranSesat(Deviated Teachings): The Official Views on Sufism in Malaysia”
18:00-18:10 Break
18:10-18:30 Comment: Omar Farouk
18:30-18:40 Concluding Remarks: TONAGA Yasushi

概要:
Part One: Struggles with Colonialism
第1部会:“Struggles with Colonialism”と題された第一部会では、以下3つの報告がなされた。
 まず登利谷正人氏(上智大学大学院)により、“Patterns in the Legitimacy of Rule in Modern Afghanistan and Its Neighboring”というテーマで発表が行われた。本発表の目的は、現代アフガニスタンの成立を考える上で重要となる、「権威の正統性」と「パシュトゥーン・ナショナリズム」の関係について検討することであった。パシュトゥーン人によって設立されたドゥッラーニー朝初期においては、ムガル朝に対抗する形でパシュトゥーン人の系譜が編纂されたが、同王朝の急速な拡大に伴って、インドにおけるパシュトゥーン人もドゥッラーニー朝の臣民と同一と考えられるようになった。19世紀、シク教国の出現やイギリスによる植民地支配によって弱体化したドゥッラーニー朝の後に設立したバーラクザイ朝においては、イギリスやロシアの干渉・侵略の高まりにより、国民国家を狙いとした新たなナショナリズムが興った。報告者の分析によれば、この時代においては、パシュトゥーン人の系譜とアフガニスタンの歴史の関連性により王朝の正統性が保たれていたという。しかしながら、その後の近代化政策に伴って、ドゥッラーニー朝とバーラクザイ朝の連続性がアフガニスタンの正統性とされるようになった。そして、20世紀に入り、思想家アブドゥルガッファール・ハーンによって、アフガニスタンと英領インドにおけるパシュトゥーン人の統一を目指した、パシュトゥー語の普及や文学活動などが始められ、この時代にパシュトゥーン・ナショナリズムが促進した。以上のように、氏は支配の正統性とパシュトゥーンの歴史記述の関係性を捉え、パシュトゥーン・ナショナリズムの変容を明らかにした。
 続く関佳奈子氏(上智大学大学院)の発表“The Reconsideration of the Rif War (1921-26): The Discourse of ‘Abd al-Karīm al-Khaṭṭābī”では、スペインに対する植民地解放闘争である北部モロッコで起きたリーフ戦争に対する検討が行われた。発表では、まずリーフ戦争が起きた文脈について、20世紀前半にスペインに占領されていたリーフ地方や当時の社会状況に関する説明がなされた。その次に、植民地解放とベルベル人の独立というリーフ戦争が有した二つの側面について、最後にモロッコにおける民族アイデンティティについての検討が行われた。氏は、これまでスペイン側の文書や視点に偏りがちであった先行研究の問題点を指摘し、リーフ戦争をより多角的に理解するために、リーフ戦争のモロッコ側の指導者であったアブドゥルカリームに注目し、彼の書簡、声明文、新聞記事という異なる性質の文書の分析を行うことで、以下の三点を明らかにした。第一に、アブドゥルカリームは当時の国際状況に関心を払い、トルコのアタテュルクや中国の孫文といった、より広い地域において活躍していた指導者から影響を受けていた可能性があること、第二に、アブドゥルカリームがリーフ戦争によって、スペインとフランスの植民地からの解放に加え、国家もしくは地域的な「独立」を目指していたこと、第三に、彼はアラブ人やスペイン人、フランス人を「他者」と見なし、ベルベル人と区別していたということである。質疑応答では、他地域の指導者との関係などに関する質問などがなされ、本事例のよりよい検討のための討議が行われた。
 セッションの最後の発表は、栃堀木綿子氏(京都大学大学院)による“The Contract with Non-Muslims: The Peace Agreements and the Surrender of ‘Abd al-Qādir al-Jazā’irī”であった。本発表では、19世紀にフランスの征服に対するアルジェリアの武装闘争を率いたアブドゥルカーディルによる『イスラームを中傷する者の舌を切る鋭い鋏』という著作の分析を通して、彼の異教徒との協定に関する思想についての考察が行われた。発表では、まず同著の執筆の背景として、フランスでの拘留とイスラームに対する批判への応酬があったということが説明された。その後に、著書の読解により、アブドゥルカーディルがシャリーアに則り、非ムスリムをも含む全人類に共有されるという契約の遵守、そして、ムスリムが捕虜となったときにどう振る舞うべきかなど、複数の状況における取るべき具体的な行動指針を示した「法規定と捕虜の処遇」に関する概念を提示していたことが明らかにされた。質疑応答では、アブドゥルカーディルや彼の著作が当時の社会に与えた影響などに関する質問がなされ、アブドゥルカーディルに関するより広い知見を得られるものとなった。ムスリムと非ムスリムの間の協定を扱った氏の発表は、ともすれば「攻撃的」と捉えられがちなイスラームに対するより深い理解を提供し、またイスラームにおける異教徒との対話という、今日においても注目度の高い問題を考える上での一つの事例を提示するものとなった。
(西山愛実・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)

Part Two: Society and Religion in the Age of Globalization
 第2セッションは「グローバル化時代の社会と宗教」と題し、岡戸真幸氏(上智大学)、OusmanouAdama氏(名古屋大学)、Reem Ahmad氏(上智大学、)内山明子氏(京都大学)、藤井千晶氏(大阪大学)の5人による報告が行われた。
 岡戸真幸氏の報告は、上エジプト出身者の都市部における社会的ネットワークの形成過程について、2008年4月~2010年3月に、氏がアレクサンドリアで行ったフィールドワークに基づくものであった。家族、親族関係、隣人関係といった血縁や地縁関係が、移住先であるアレクサンドリアにおいて社会的ネットワークの基盤として作用し、それらを介した相互扶助や情報交換などが都市生活を支える重要な基盤の一つであることが明らかにされた。
 Ousmanou Adama氏の報告は、カメルーン北部の都市Marouaを対象とするものであった。Marouaはカメルーン北部最大の都市で、イスラームを帰属宗教とするFulaniの人々が多数を占める都市である。氏は、ヨーロッパ的基準に基づくウェーバーの都市類型論を批判し、マグリブやエジプトの諸都市に代表される、伝統的イスラーム都市類型とも異なる都市の発展類型の一つとして、Marouaのような熱帯アフリカ都市の役割と、その重要性を示唆した。
 現在、日本に住む日本人ムスリムと外国人ムスリムは、約12~13万人といわれる。Reem Ahmad氏の報告は、日本在住の日本人ムスリムや外国人ムスリムがどのような問題に直面しているのかについて、アンケート調査などによって明らかにしようとするものであった。氏の調査によって、ムスリムのための墓地や、教育の場の不足といった問題が浮き彫りとされた。ムスリムへの理解が、このような問題を解消するうえで重要であると結んだ。
 次に、内山明子氏による報告が行われた。氏の報告の主題は、現代イラン人女性による聖地Emāmzāde参詣の目的を、アンケート調査とインタビュー調査を踏まえて明らかにすることにあった。調査結果として、男性よりも女性の方が聖地参詣に熱心で、聖地でより多くの時間を過ごすことや、聖地訪問の目的は必ずしも宗教的目的に限定されるものではなく、自宅や職場に近いという物理的理由、友人に会うためといった理由などが示された。
 藤井千晶氏の報告は、東アフリカ・ザンジバルにおけるクルアーンとハディースに基づくProphetic Medicineと呼ばれる、「民間療法」に関する考察である。氏は、カセットテープやスピーカーなどの近代技術を使ったProphetic MedicineをNew Prophetic Medicineと位置づけ、それを施す場所に焦点を当てた報告であった。現地調査を通じて、医療を施す者にとっては同時に多くの患者を治療できるというメリットがあり、患者にとっては訪問しやすく、精神的安寧を享受できる場所であるということなどが明らかにされた。
(関佳奈子・上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士後期課程)

Part Three: Tradition and Innovation in Modern Sufism
Part3: Tradition and Innovation in Modern Sufismにおいて以下、4名が発表を行った。
 まず石田友梨氏(京都大学大学院)はShāhWalĪAllāh’s Concept of the Spirit (Rūḥ) と題する発表において、スーフィズムにおける心理学ともいえる理論を構築した、18世紀インドの思想家、シャー・ワリー・ウッラーにおける精神 (rūḥ) の概念について説明した。まず彼が著作において示す心的概念とは、低次の見かけの心的構成要素と、高次の隠された心的構成要素の二つの次元に分けられる。この次元の中間に位置するものは理性的魂と呼ばれ、スーフィズムの修行においてそれらの段階の移動を行う際、包括的な知識が獲得されることから最も隠された心的構成要素とされる。このとき“精神”は“秘密”とともに低次の構成要素に属するが、“心”-心臓、“知性”-脳、“低い自己”-肝臓のように身体の部位と結び付けられてとらえることはできない。第二に彼が精神を以下の三段階―①気体状の魂であるプネウマ、②理性的魂、③天使の魂または神的精神―に区分してとらえていることが示された。ここで重要なことは、彼が精神とは生命の源泉であると主張している点である。とりわけプネウマは身体と魂を結び付け、かつ精神世界と物質世界を仲介する役割を持つ。以上の点からワリー・ウッラーの理論において、精神とは身体と非身体の境界にあること、理性的魂は地上の世界と神的世界を結び付けることが示された。
 二人目の西山愛実氏(京都大学大学院)は“The Change of Discourse of the Naqshubandī Order in the Developing Period: A Case of the Altınoluk Group”において、現代トルコにおいて最も有力なナクシュバンディー教団のひとつ、アルトゥノルク・グループ発行の月刊誌、『金の樋』における記事について、1986年の創刊から2011年にかけての変化を分析した。グループ名アルトゥノルクとは同グループ発行の『金の樋』のトルコ語に由来し、マッカのカアバ神殿の樋を意味する。同グループの活動は社会福祉事業、クルアーン学校の創設、出版など多岐に渡る。特徴的な点として構成員にはスーフィズムの実践とともに、グループ発行の『金の樋』誌の購読、同誌の読書会への参加が求められていることが挙げられる。同誌は教団の中で重要な位置を占めるとともに、2000年代からのトルコのイスラーム主義の傾向を説明するうえでも有効な資料といえる。西山氏の分析の結果、同誌の記事の傾向として1990年代終わりまでは、世俗主義的な政策に対する批判の論調が目立っていた。ところがその後は、「イスラームの価値」によって説明される社会活動、女性、身体、精神、家庭の問題が記事の多くを占めるようになった。この『金の樋』誌の内容の変化については、国内でのイスラーム復興と対応しており、さらにはグループの拡大の時期とも重なっていると結論づけられた。本発表で示された『金の樋』記事の政治から社会一般への論調の転換は、世俗国家として成立したトルコ共和国におけるイスラーム復興におけるスーフィズムの態度のあり方を顕著に示す事例といえよう。
 三人目のイディリス・ダニシマズ氏(日本トルコ文化交流会、同志社大学)は、“Sufism as a Tool of Intercultural Dialog: The Case of the “Sufi for a Month” Program Held in Turkey”において氏が実際に参加したトルコでのスーフィズム体験プログラム、“Sufi for a Month (SFM)”の事例を通じて、現代トルコにおけるスーフィズムの概念を分析した。プログラムは十日間の集中コースの中で、イスタンブル、コンヤといったトルコのスーフィズムの要所を巡り、講義、フィールド訪問、体験学習によって、“アナトリア (トルコ) のスーフィズム”に関する知識を深めることが目的とされた。SFMにおいて見出される、現代トルコにおけるスーフィズムとは以下の二点にまとめられる。まず宗教・文化間対話といった現代の要請にこたえるものととらえられる。この点は、本プログラム参加者のほとんどが非ムスリムの欧米人であったこと、トルコのスーフィー儀礼の多くが広く一般に開放されていることから示される。二点目にスーフィズムは、近代トルコにおいて廃止されたタリーカとの差異化が図られる一方、近年増加しているイスラーム組織ジャマアートと親近性をもってとらえられる傾向がある。SFMの主催者たちによって、ルーミーをはじめとするトルコのスーフィズムの先駆について、個人の内面探求の道を追求した功績とともに、いかなる教団にも所属しなかった点が言及されていることは興味深い。
 同セッション、WSを通じた最後の発表者、久志本裕子氏(上智大学)は“AjaranSesat (Deviant Teaching): The Official Views on Sufism in Malaysia”において、マレーシアにおけるスーフィズムについての公式見解について明らかにした。まず表題にもなっているAjaranSesatとは、イスラームを連邦の公式の宗教に掲げるマレーシアにおいて、異端とみなされる事例に対する呼称であり、一般的にスーフィズムに対して用いられることが多い。しかしながら、州政府の見解はスーフィズムに対し常に一義的な見解を表明するものではない。まず、スーフィズムに対するファトワーが否定的な場合、特定のタリーカやシャイフ、さらに存在一性論の教義を用いた場合に対して逮捕、拘束、罰金などの刑罰が課されてきた。このような場合スーフィズムは社会において危険視、阻害され得る。しかし他方で、ファトワーがスーフィズムを保護する場合として、ヌグリ・スンビラン州の事例が説明された。同州では活動する教団に対して、登録とファトワー委員会からの許可を取得することが義務付けられており、正しいスーフィズムとの判断が公式に下される。さらに州政府による指導のもとスーフィズムの研究が盛んであり、存在一性論についての討論会も開催されている。本発表においてマレーシアにおけるスーフィズムが州政府のファトワーによる公式見解のもと不可視化、可視化される事態は、スーフィズムの社会的影響力の反映であると結論付けられた。
(栃堀木綿子・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)

Comment & Concluding Remarks
 各発表が終わった後に、コメンテーターであったオマル・ファルーク氏から、本国際ワークショップへのコメントが寄せられた。ファルーク氏はまず、本国際ワークショップは全体として成功裏に終わった点を強調した。そのうえで、各発表に対するコメントを寄せるなかで、質疑応答とコメントを生かす形で、各自の今後の研究の進展に求められる点を指摘した。最後に、各自の研究が将来的にいかに発展しているのかを楽しみにすると同時に、今後また発表者たちの研究を聴く機会に恵まれることを願って止まないとのコメントが寄せられた。
 最後に本国際ワークショップの主催者のひとりであった東長靖氏より、全体を総括するコメントが寄せられた。そこでは、学生が英語で持続的に研究発信を行うことの必要性、人を説得させる手法の習得、発表機会を通じて成功体験を積み重ねることの重要性が提示された。さらに、本国際ワークショップが学生の英語発信力を養うためのひとつの重要な場となっており、ここでの機会を足掛かりにより国際的な舞台での研究発信が強く望まれる点を強調して、全体の総括を締めくくった。
(安田慎・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)