研究会・出張報告(2011年度)

   出張報告

期間:2012年2月20日~3月1日
国名:ヨルダン・ハシミテ王国
出張者:吉川卓郎(立命館アジア太平洋大学、助教)

概要:
 このたびの出張では、2011年度合宿研究会「中東政変の背景と意義―民主化とイスラーム問題の現状と展望」における出張者の報告の成果(詳細は、SIASウェブサイト内の議事録参照)を念頭に、「アラブの春」から1年を経たヨルダンの社会情勢を調査した。出張中に把握した内容は、おおむね以下のとおり。

1.内政
バヒート(前首相)、ザハビー(元統合情報庁長官)といった政官界重鎮の汚職疑惑が相次いで表面化している。メディアや野党の追及も厳しく、この1年の改革の成果を強調したいヨルダン政府にとって痛い失点となっている。かかる事情から、現体制(ハサーウネ内閣)は慎重な政権運営を続けざるを得ず、大がかりな政治経済改革に踏み切れない模様。

2.社会運動
大きな動きとしては、2月初旬より続いていた全国規模の公立学校教員ストライキが終結した。政府は、財政難にもかかわらず教員組合(民主化運動の結果、昨年に初公認)の大幅な要求(教員の大幅な昇給)を受け入れており、この結果は今後の組合運動全般にも影響するとみられる。なお、教員組合のケースに見られるように、最近は多くの組合・社会運動の要求が個別化・分散化する傾向にある。このことは、昨年前半に多く見られた運動横断的なデモが、最近ではほとんど見られなくなった一因になっているのではないだろうか。

3.地方の状況
(1)首都圏(アンマーン、ザルカー、他)
昨年の夏以降、自国の混乱を避けてアンマーンに一時滞在するアラブ人が増加しており、首都圏のホテル宿泊費・賃貸住宅家賃の高騰や、病床数の不足を招いているといわれる。
(2)北部(イルビド、マフラク、他)
シリア南部からの訪問者(実質的な避難民)が急増している(出張当時は、7万人程度がヨルダン国内に滞在と報じられていた)。多くはヨルダン北部の親類縁者宅等に分散して身を寄せているとみられ、目立った集団や運動等は形成されていない様子であった。
(3)南部(マアーン)
マアーン市は抗議行動が頻発することで知られるが、訪問当時には落ち着いていた。しかし、地域の景気、雇用は依然として厳しい模様。

(文責:吉川卓郎)