研究会・出張報告(2011年度)

   出張報告


期間:2011年7月28日(木)~8月15日(月)
国名:チュニジア、エジプト
出張者:私市正年(上智大学・教授)

概要:
 本調査は、上智大学拠点の研究課題「イスラーム近代と民衆のネットワーク」に即しつつ、いわゆる“アラブの春”に直面して、イスラーム主義運動がいかなる状況にあるのかを、チュニジアとエジプトにおいて調査することを目的として行われた。日程は、7月28日~8月15日であった。
 チュニジアの首都チュニスにおいては、ジャスミン革命で糾弾の対象となったRCD本部やチュニジア中央銀行、焼き討ちにあった高級ショッピングモール(Geant)、内務省、首相府などを訪れた。またマヌーバ大学のカズダギ教授を訪ね、革命後の大学教育・研究について意見交換をした。地方都市においては、ガベス、イスラーム政党であるナフダ党の党首ガンヌーシーの故郷エル・ハーンマ、ガフサ、革命の発火点となったシディ・ブズィド、サヘル地域(モナスティル)などを訪れた。状況としては、独裁体制を自らの力で倒したとの自信と誇り、民主的な選挙を実施するための準備、革命後の政変に伴う観光客の減少と経済への影響、イスラーム政党の勝利への期待と不安の混在などが目に付いた。
 エジプトのカイロにおいては、JICAを訪れ、革命後のムスリム同胞団と若者集団との関係、11月に予定されている人民議会選挙などについて聞き取り調査を行った。ヘルワン大学のムハンマド・サブリー教授を訪問し、革命後の大学教育・研究について意見交換をした。また、内務省、ムスリム同胞団系政党「自由公正党」やワサト党の事務所も訪れた。
 チュニジアと同様に、エジプトでも人々の表情は明るく、独裁と抑圧と監視からの解放感、観光客の激減に伴う観光業者の苦悩、選挙体制の準備の遅れ、チュニジアと異なり軍の支配が続く中での民主化の障害などが確認できた。
 チュニジア及びエジプトにおける政治変革の状況は、なお流動的ではあるが、もはや後戻りができない歩みをしていることは確かであり、次なる課題は選挙が公正かつ透明に実施されるかどうかであろう。
 (私市正年)