研究会・出張報告(2011年度)

   研究会

日時:2011年6月5日(日)15:30~17:20
場所:上智大学四谷キャンパス紀尾井坂ビル108号室

プログラム:

*Carl W. Ernst, Shambhala Guide to Sufism, Boston & London: Shambhala,1997.
15:30~16:20 文献発表1
 二ツ山達朗(京都大学)“Chapter 7: Sufi Music and Dance”
16:30~15:20 文献発表2
 内山明子(京都大学)“Chapter 4: The Names of God, Meditation, and Mystical Experience”


概要:
 2011年度最初の「スーフィズム・聖者信仰研究会」では、前回の研究会(2011年3月開催)に引き続き、スーフィズムに関する優れた概説書の一つであるThe Shambhala Guide to Sufism(Carl W. Ernst著)から2章を取り上げ、読書会を行った。
 まず二ツ山達郎氏がスーフィーの音楽と舞踊を扱った第7章の内容を発表した。この章はスーフィーの著作を引用しながらスーフィー音楽の理論的側面を論じた前半部と、スーフィー音楽と舞踊の地域的な伝統を扱う後半部の二部からなる。理論面を扱った前半部では、おもにサマーウに関しての議論が繰り広げられる。著者はスーフィー音楽を理解する際の出発点として肉声の重要性を挙げるとともに、サマーウの効用はワジュド(エクスタシー)にあること、また、サマーウの源泉が神への魅了や恍惚であることを指摘する。
 各地域における音楽と舞踊の実践を扱う後半部では、スーフィーの音楽や舞踊の多様性とイメージの広がりが、カウワーリーやメブレヴィー教団の旋回舞踊などを題材に論じられている。著者は、また、西洋におけるスーフィー音楽や現代における大衆向けに再生産されたスーフィー音楽についても論じ、スーフィー音楽の再定義と再評価が行われている点を指摘している。
 その後の質疑応答では、伝統的に培われてきた音楽と大衆向けに再編された音楽との相違や、スーフィー音楽と民謡との関係性、また、メブレヴィー教団の旋回舞踊に代表されるような特定の儀礼だけ取り上げられる理由などの話題について議論が交わされた。
 内山明子氏が発表した第4章は、スーフィズムの実践を取り扱った論文である。この章はスーフィズムの周辺部にいる人々に関する議論と、修行の成果を十全に得るべく修行に勤しむ上級者にかかわる議論のふたつに大別される。前者では主に、神の美名や神の言葉たるクルアーンの章句を唱えることの意味や機能が論じられる。著者はズィクルや祈りにおいて神の美名やクルアーンの章句を唱えることの重要性を繰り返し強調するとともに、ズィクルの実践が救済や精神の変容、信仰の強化につながっていることを主張している。
   これに対して、スーフィズムの修行論と霊魂論、神秘的体験について議論しているのが後者である。著者は、瞑想や隠遁をめぐる手法の発展に伴い、神秘体験における心理状態(階梯)を精緻に把握しようとする流れと、魂の階梯と結びついた修行法を編み出していく流れという2つの潮流が出現したことを指摘している。 文献発表後の質疑応答では、アラビア語でズィクルを行うことの重要性、あるいは、アラビア語を母語としない人々がクルアーンの内容をどのように内在化し、また、アラビア語の章句の意味をいかに受け止めているのかという点などについて意見が交換された。
 (丸山大介・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)