研究会・出張報告(2010年度)

   出張報告

期間:2011年3月23日(水)~31日(木)
国名:オランダ、フランス
出張者:高橋圭(人間文化研究機構・PD研究員/上智大学・客員研究員)

概要:
 本出張では(1)ライデン大学図書館に所蔵されている近代エジプト・スーフィー教団関連の写本・文書の調査、および(2)来年度以降に上智大学拠点と京都大学拠点が連携して、CNRSと共催する予定の合同ワークショップの打ち合わせを行った。
 (1)ライデン大学は、近代エジプト・スーフィー教団の研究者として著名なフレデリック・デ・ヨング博士が教べんをとっていた大学であり、当該大学図書館にはデ・ヨング博士が収集した近代エジプト・スーフィー教団関連の写本・文書のコレクションが所蔵されている。今回の調査の目的は、このコレクションの内容を網羅的に確認したうえで、特に出張者の研究テーマに関わるいくつかの文書・写本を読解・収集することにあった。なお、本コレクションの概要をつかむうえでの参考となるのが、ライデン大学から出版されている所蔵アラビア語史料のカタログであり、この中に上記のコレクションの情報も掲載されている。出張者はこのカタログを利用しながら調査を行った。調査の結果は以下のとおりである。まず、コレクションの内容は大きく分けて、1. バクリー家所蔵文書群、2. トルコ系カーディリーヤ教団関連文書群、3. ワファーイーヤ教団関連文書群、4. ベクタシー教団関連文書群、5. エジプトのスーフィー教団一覧を掲載した写本2点、6. その他のスーフィー教団関連文書群に分類することができる。上記の様々な文書の中でも特に目を引くのがベクタシー教団関連文書群であり、この中には1965年までカイロにテッケを構えて活動を行っていたベクタシー教団に関する多数の文書が収録されている。この文書群は、一般にその実態の把握が困難なスーフィー教団の社会経済的な側面を伝える文書を数多く含む貴重な史料であることが分かった。ただし他方で、ベクタシー教団はエジプトではほとんど影響力を持たなかったごく小規模の教団であり、またその文書の多くがトルコ語で書かれていることから、エジプトのスーフィー教団の事例というよりは、トルコや他の地域のベクタシー教団との関連で研究を進める際の材料として利用する方が適切であるとも思われた。なお、出張者自身は上記の分類のうち、特に5と6を参照し、その内容の読解を行った。
 (2)来年度以降、上智大学拠点では、京都大学拠点と連携をし、CNRSとの共催で合同ワークショップを開催する予定となっており、出張者はオランダからの帰国に際して、パリに一泊滞在をしてそのための打ち合わせを行った。なおそのついでアラブ世界研究センターを訪問し、若干の資料の閲覧を行った。 (高橋圭)