研究会・出張報告(2010年度)

   研究会


日時:2011年3月1日(火)~2日(水)
場所:京都大学AA447号室

プログラム:

2011年3月1日(火)
13:30-15:30 研究発表1
苅谷康太(日本学術振興会/東京大学東洋文化研究所)
「アラビア語著作から見る西アフリカ・イスラームの宗教的・知的連関網―アフマド・バンバに至る水脈を中心に」
コメンテーター:赤堀雅幸(上智大学)

16:00-18:00 研究発表2
Marc Toutant(CETOBAC, CNRS-Collège de France-EHESS, Paris)
“Materialist Ideology Facing a Great Sufi Poet: The Case of ‘Ali ShirNawa’i in Soviet Uzbekistan”
コメンテーター:矢島洋一(京都外国語大学)

2011年3月2日(水)
09:30-10:20 文献発表1
茂木明石(上智大学)”Chapter 3: Saints and Sainthood.”
(文献発表はCarl W. Ernst, Shambhala Guide to Sufism, Boston & London: Shambhala, 1997を使用)

10:30-12:30 研究発表3
澤井真(東北大学)
「タバリーのタフスィールにおける生と死―クルアーン解釈の形成期における伝承(ハディース)の役割」
コメンテーター:東長靖(京都大学)

13:30-14:20 文献発表2
栃堀木綿子(京都大学)”Chapter 8: Sufism in the Contemporary World.”

14:30-15:20 文献発表3
二宮文子(日本学術振興会(京都大学))”Chapter 5: The Sufi Orders: Mastery, Discipleship, and Initiation.”

15:30-16:30 総合討論

概要:
 本ワークショップは、スーフィー・聖者研究会で毎年開催されている研究合宿に当たり、本年度は3月1日から2日にかけて京都大学を会場に行なわれた。なお、本年度は研究発表と課題書籍の読書会の2本立てであった。会議の冒頭に当たり、赤堀雅幸教授から全体の趣旨説明が行なわれ、その後、参加者の自己紹介が行なわれた。1日目は2つの研究発表を中心に行なわれた。
 苅谷康太氏(日本学術振興会)の「アラビア語著作から見る西アフリカ・イスラームの宗教的・知的連関網―アフマド・バンバに至る水脈を中心に」は、バンバを中心に西アフリカに広がっていた連関網を描き出す発表であった。アラビア語写本や彼の著作を読み解きながら、同地域におけるタリーカが集団の枠を越えて展開していたことが明らかにされた。コメンテーターの赤堀雅幸氏(上智大学教授)からは、知的側面のみならず根気のいる作業が評価された一方、論の構成に関する意見が出された。さらに、討論では「労働の教義」とバンバの関係性などについて、議論が行なわれた。
 Marc Toutant氏(CETOBAC, CNRS-Collège de France-EHESS, Paris)の”Materialist Ideology Facing a Great Sufi Poet: The Case of ‘Ali Shir Nawa’i in Soviet Uzbekistan”は、ナクシュバンディー教団を代表するナヴァーイーの詩や、彼の詩に影響を受けた諸研究者の議論を分析しながら、ナヴァーイーの業績とスーフィズムの関係性を明らかにした。さらに、タリーカやスーフィズムが、近代化の波の中で科学的無神論から攻撃に直面した状況について考察した。コメンテーターの矢島洋一氏(京都外国語大学非常勤講師)からは、スーフィズムが危険視されていたことが補足された後、よく知られているジャーミーの詩が、ソビエト占領下のタジキスタンで果たした役割に関する質問などが寄せられた。また、討論では同じくウイグルのケースへと議論が展開するなど、様々な質問が寄せられた。
 2日目には、澤井真(東北大学)が「タバリーのタフスィールにおける生と死―初期クルアーン解釈における伝承(ハディース)の役割」と題して、クルアーン解釈の形成期を代表するタバリーのクルアーンの注釈を考察した。そこでは、2つの生と死をどこに置くのかという注釈(Q2:28-29)を通して、初期スーフィズムの代表的テーマである「原初の契約」(Q7:172)も論じられた。コメンテーターの東長靖氏(京都大学准教授)は、初期イスラームのハディース収集やタフスィールの議論を整理した後、タフスィールとタアウィールの語における訳語やその問題点を指摘した。質疑応答では、タバリーの注釈のスタイルや用語に関する質問などが寄せられた。
 こうした研究発表と共に、スーフィー・タリーカ研究を代表する概説書である、Carl ErnstのThe Shambhara Guide to Sufism(1997)の読書会が行なわれた。今回は、茂木明石氏(上智大学)が”Saints and Sainthood”(3章)を、栃掘木綿子氏(京都大学)が”Sufism in the Contemporary World”(8章)を、二宮文子氏(日本学術振興会)が”The Sufi Orders: Mastery, Discipleship, and Initiation”(5章)をそれぞれ担当した。報告者は、聖者崇敬やタリーカに関する知識がほとんどなかったため、これらの領域を専門とする担当者や参加者の知見から学ぶところが多かった。
 最後の総合討論では、主に来年度以降の取り組みについて話し合われた。若手研究者のための研究発表の場と共に、研究成果の国際的発信というこれまでの方向性に加えて、今回は読むことのできなかった残りの章を読書会として継続して通していくことなどが決められた。それは、スーフィズムやタリーカの研究者同士が共通の土台から議論できるようにという意図からである。SIASとKIASを中心に進められてきた研究プロジェクトが、次のステップへ展開するための大きな展望を企図しながらも、読書会などの身近な足元の議論から進めることが確認された。今回のワークショップは、討論のための十分な時間が取られていたために、お互いの意見交換や情報交換を行なうことができた。このことは、参加者のほとんどが共有した感想であったように思われる。
(澤井真・東北大学大学院文学研究科博士後期課程)