研究会・出張報告(2010年度)

   研究会

日時:2011年2月28日(月) 9:30~19:00
場所:上智大学2-508号室

プログラム:
09:30-09:50 Opening Remarks (AKAHORI Masayuki)

09:50-11:40 Part 1 Sufism: Ideas and Practices (Chair: AKAHORI Masayuki)
Idiris Danismaz (Kyoto University/Turkey Japan Cultural Dialog Society)
 “Sufism in Contemporary Turkey: Interpretation of Ibn Arabi’s Thought in ‘Kalbin Zumrut Tepeleri (Emerald Hills of the Heart)’”
ISHIDA Yuri (Kyoto University)
 “The Concept of Spirit (Rūh) in Hujwīrī’s Unveilling the Veiled (Kashf al-Mahjūb)”
Eloisa Concetti (Durham University)
 “Mujaddidi Branches among Hui People of Gansu, Qinghai and Ningxia: A Preliminary Account”

12:40-13:40 Part 2 Saint Veneration: Past and Present (Chair: FUJII Chiaki)
MOTEKI Akashi (Sophia University)
 “The Genealogy (nasab) of Imam Shafi‘i through the Analysis of Hagiographic Sources”
UCHIYAMA Akiko (Kyoto University)
 “The Actual Conditions of Women in Contemporary Iran: Through their Visit to “Emamzadeh””

13:50-15:40 Part 3 Encounters with Different Faiths (Chair: TAKAHASHI Kei)
TOBINAI Yuko (Sophia University)
 “The Role of Christianity among Kuku in Khartoum: Function and Management of Communities”
Reem Ahmad (Sophia University)
 “The Problems That Muslims Face in Japan”
TOCHIBORI Yuko (Kyoto University)
 “The Discourses about al-Amīr ‘Abd al-Qādir al-Jazā’irī among French and English People”

15:50-17:20 Part 4 Politics, Society, and People (Chair: ARAI Kazuhiro)
SHIMIZU Masako (Sophia University)
 “The Socio-Political Transformations of Contemporary Palestine and the Electoral Participation of Hamas: The Process of Change of Organizational Structure and Political Opportunities”
OKADO Masaki (Sophia University)
 “Mindful of their Origins while Residing in the City: The Experience of Migrants and their Descendants from Upper Egypt in Alexandria”
AKIYAMA Fumika (Sophia University)
 “Developing Tourism Industries for Formation of Tunisian National Image”
17:40-18:00 Comment
Rina Shahriyani Shahrullah (Universitas Internasional Batam/UIB, Indonesia)
Marc Toutatnt (CETOBAC, CNRS-EHESS, France)
18:00-19:00 General Discussion

概要:  本ワークショップは、Rina Shahriyani Shahrullah氏(Universitas International Batam/UIB, Indonesia)とMarc Toutant氏(CETOBAC, CNRS-EHESS, France)をコメンテーターに迎えて開催された。ワークショップは4セッションで構成されており、様々な地域とディシプリンに基づいて研究を進める若手研究者11名が発表を行った。
 第1部は「スーフィズムの理念と実践」と題され、3名の研究者が報告を行った。イディリス・ダニスマズ氏は、ギュレンの解釈によるイブン・アラビー思想を分析し、現代トルコのスーフィズムについて論じた。そして、1925年以降、スーフィー教団の活動は禁止されたが、その伝統は脈々と受け継がれてきたことを明らかにした。石田友梨氏は、フジューイリーの著作Unveiling the Veiled (Kashf al-Mahjūb)におけるrūhの概念を考察し、その概念が実体を持つものであることと、永遠ではないことを指摘した。エロイザ・コンチェッティ氏は、中国北西部のムジャッディディー教団ついての報告をおこない、19世紀から20世紀初頭にかけて、教団が地元における改革と発展に寄与してきたことを指摘した。
 第2部の「過去・現代における聖者信仰」と題されたセッションでは、2名が発表を行った。茂木明石氏は、イマーム・シャーフィイーの血統について2つの聖者伝を分析し、これらの著作の中でシャーフィイーと預言者の血統的な近しさが強調されている点を指摘した。内山明子氏は、イラン女性のエマームザーデ参詣に焦点を当て、インタビューをとおして明らかになった、女性達の抱える問題、エマームザーデの様々な特徴と機能、役人と一般女性達では異なるエマームザーデの捉え方、年齢や社会的地位を問わず、多くの女性達が参詣する点、エマームザーデに祀られているイマームの子孫のみでなく、神に祈る女性達の事例を報告した。
 第3部の「異なる信条の遭遇」と題されたセッションでは、3名が発表を行った。飛内悠子氏は、ハルツームにおけるクク人の宗教実践を取り上げ、多民族都市であるハルツームにおいて、クク人が、自分達のアイデンティティを保持しながらも、バランスを取りながら生活している点を明らかにした。リーム・アフマド氏は、日本で生活するムスリム達が直面している問題について、実体験を交えながら報告した。氏は、様々な問題を挙げながらも、ムスリムと日本人にみられる共通の慣習(清潔好き、勤勉性、年長者に対する尊敬)に触れ、アメリカやヨーロッパ諸国に比べると、日本はムスリムにとって住みやすい環境である点にも言及した。栃堀木綿子氏は、フランスとイギリスにおけるアミール・アブドゥルカーディル・ジャザーイリー像の言説を比較分析し、フランスにおけるアブドゥルカーディル像が、アルジェリアとフランスの同化の象徴として捉えられているのに対し、イギリスでは、フランス軍との戦いにおける指揮官として捉えられていることを指摘した。
 第4部の「政治・社会・人」と題されたセッションでは、3名が発表を行った。清水雅子氏は、パレスチナにおける社会・政治的変遷とハマースの選挙への参加について報告し、ハマースの選挙への参加がムスリム同胞団の時代から始まっていた点を指摘した。岡戸真幸氏は、アレクサンドリアにおける上エジプト出身の労働者達に着目し、彼らが同郷者の葬式に参加することで、互いの絆を再確認していることを報告した。そして岡戸氏は、様々なバックグラウンドを持った同郷者との関係を構築しておくことは、彼らの将来的な可能性を広げることにも繋がる、と結論づけた。秋山文香氏は、チュニジアにおける観光産業の歴史的変遷について報告し、JICAのレポートから現在直面している課題を指摘した。中東・アフリカ諸国の中では経済的に発展しているように思われるチュニジアであるが、2011年1月14日に起こった革命もあり、今回浮き彫りになった問題点の解決は、さらに困難を極める状況にあることが指摘された。
 本ワークショップでは、イスラーム世界の多様な地域やテーマ、ディシプリンに基づいた研究に触れることができ、国内外の若手研究者の層の厚さを感じる有意義なものとなった。定期的に開催されている本ワークショップの新しい試みとして、従来の30分の発表(質疑応答を含む)に加え、50分の発表が2本組み込まれた。従来の発表時間は、限られた時間内で、英語でいかに聴衆に分かりやすく要点を伝えるか、というスキルを磨く点で有効であったが、議論をする上ではやや物足りない印象が否めなかった。そのような中で、今回実施された50分の発表では、発表内容も掘り下げられ、質疑応答でも十分に議論をすることができた。今回は時間的な制約もあり、1日で11名が発表を行うプログラムが組まれたが、今後、より各発表の内容と議論を充実させるために、2日間の日程を検討することも課題としてあげられた。
(藤井千晶・京都大学)