研究会・出張報告(2010年度)

   出張報告


期間:2011年2月21日(月)~3月7日(月)
国名:アルジェリア
出張者:私市正年(上智大学・教授)

概要:
 今回のアルジェリア出張目的は、(1)中東政変のさなかでもあったのでアルジェリアにおける政治状況、とくに民主化を求める運動の状況把握、(2)1996年にティベリン修道院の7人の修道士虐殺事件の背景の分析、の二つであった。
 (1)アルジェリアでも毎週、土曜日に民主化を求めるデモが行われていたが、ほぼ完ぺきな形で警察によって封じ込められていた。その理由は、第一に、デモの主体者の分裂である。デモはRCD(民主主義のための文化連合)を中心とした政党系グループと人権派グループとに分裂し、足並みがそろっていなかった。第二に、アルジェリアは1990年代にイスラーム勢力と軍・警察・体制との間で激しいテロリズムを伴う内戦を経験し、10年間で12万人以上の犠牲者を出した。多くのアルジェリア人はまだその恐怖感から解放されていないので、再び社会が混乱することを極度に恐れているのである。第三に、88年暴動と90年代内戦中にあれだけの反体制と抗議運動を行なった(その結果として多数の犠牲者)のに現実にはほとんど民主化の改革が実現できなかったという失望感と挫折感から、人びとは公的改革よりも、個人の幸福を志向するようになった。第四に、軍・警察・体制はすでに90年代の反体制運動を鎮圧した経験から、いかにしたらこれを封じ込めることができるか熟知していること。
 現地視察とともに、研究分担者のArous Zoubir氏や在アルジェ日本大使館スタッフとの意見交換を行ったが、ほぼ同様の意見であった。だが、リビア情勢の結果次第でアルジェリア情勢も変わりうるのではないか、というのが私の考えである。
 (2)1996年3月、イスラーム勢力と軍・警察・体制との間で内戦中のアルジェリアでティベリン修道院の7人の修道士が誘拐され、5月に虐殺されるという事件が起こった。今なお、その真相が不明である。2月25日(金)にアルジェリア在住のカトリック神父Guillaume Michel氏とティベリン修道院を視察した。修道院はアルジェから南西85km、メデア西方にある。テロ事件後、修道院は閉鎖されたままであるが、農場の管理人という名目で修道士Jean Marie氏が1990年からここに住んでいる。
 広大な農地と敷地を有する修道院であるが、1875年コロンによる村の開拓、1938年修道院建設、古地図や古文書の所蔵などにコロニアリズムが感じられないわけでもない。独立後のアルジェリア社会に存在する意味となるとかなり難しい。アルジェリア人の信者がいないことと、フランス人修道士も布教活動は禁止されているからである。だが、アルジェリア社会に文化的な多様性や寛容さを育てていくという視点に立てば存在する意味があるのかもしれない。
(私市正年)