研究会・出張報告(2010年度)

   研究会

日時:2010年12月19日(日) 14:30~16:30

Convener: AKAHORI Masayuki (Sophia University, Japan)
Chairperson:TAKAHASHI Kei (National Institute for the Humanities/ Sophia University, Japan)
Speakers:
1. NINOMIYA Ayako (Japan Society for the Promotion of Science (JSPS)/Kyoto University, Japan)
Towards Theoretical Analysis of Tariqa: Structural Models of Tariqa in Medieval India
2. Alexandre PAPAS (CNRS, France)
Islam and Sufism in Eastern Tibet: A Minority Approach
3. FUJII Chiaki (Japan Society for the Promotion of Science (JSPS)/Kyoto University, Japan)
Successive Knowledge of the Prophet in Medical Treatment: The Case of East Africa
4. WAKAMATSU Hiroki (Sophia University, Japan)
TheOcak of Kurdish Alevis in Turkey: the Relationship between the Ritual Practice and the Veneration for the Ehl-i Beyt
Discussants
Thierry ZARCONE (CNRS, France)
AKAHORI Masayuki

概要:
 本セッションでは、高橋圭氏(上智大学)の司会の下、4人のスピーカーが発表を行なった。まず、赤堀雅幸氏(上智大学)がスーフィズム・タリーカ(スーフィー教団)・聖者崇敬という枠組みから、セッションの目的と意義について説明し、続いて各スピーカーが研究発表を行なった。
 二宮文子氏は、中世インドで展開したタリーカであるチシュティー教団の形成過程を、歴代シャイフの論考を中心に考察した。文献の読解を通して、二宮氏は同教団が12世紀のインドへ進出した後、14~15世紀の組織的展開や体系化、さらに一貫性のある世代間の継承を経て、近代的なタリーカへ展開したことを明らかにした。
 Alexandre Papas氏は、チベットのアムド(amdo)地区に居住するサラール族(Salar)におけるスーフィズムを、ナクシュバンディー教団の指導者たちを手がかりに考察した。Papas氏は、この地域におけるムスリムを、マイノリティーという視点に立って理解するとき、イスラームやスーフィズムが集団的記憶を留めるための大きな役割を果たしたと結論づけた。
 藤井千晶氏は、タンザニアに見られる伝承の医学を考察した。実際の治療映像とともに、この医学では “jinni”(ジン)が重要な役割を果たしていることが説明された。さらに藤井氏は、1980年代以降、伝承の医学を取り巻く言説の変化を通して、クルアーンやハディースとの親和性が強調されてきたことを明らかにした。
 若松大樹氏は、トルコのクルド系アレヴィーを、オジャク(ocak)の視点から考察した。オジャクとは、聖なる系譜に連なる預言者一族であると同時に、師弟関係から成る儀礼集団であるという点で、二つの側面をもっている。結論において、若松氏はアレヴィーの聖者崇敬が、これら両側面が密接に結びつくことで行なわれていることを指摘した。
 各スピーカーの発表後、Thierry Zarcone氏と赤堀氏が発表へのコメントと質問を行なった後、フロアを交えて全体討議が行なわれた。紙面の制限のため、各スピーカーへの個別的質問には触れないが、全体討議のなかでも特筆すべきは両氏のコメントであった。彼らのコメントは、時代と地域の異なった各発表を大きな枠組みに位置づけ、複合概念としてのスーフィズム・タリーカ・聖者崇敬へと議論を収斂させていた。こうしたセッションは、ともすれば地域性を強調したものへ陥りがちである。しかしながら、各スピーカーも両氏のコメントの意図と研究動向を十分に理解しており、全体として非常にまとまりのある討議となった。このことは地域研究に根ざしつつも、スーフィズム・タリーカ・聖者崇敬という共通の枠組みから議論を行なうための土台が、着実に形成されつつあることを示唆するものであると言えよう。
(澤井真・東北大学大学院文学研究科博士後期課程)