研究会・出張報告(2010年度)
研究会- IAS京都国際会議New Horizons in Islamic Area Studies: Continuity, Contestations and the Future(2010年12月17日~19日国立京都国際会館)
Session 6A: Islamist Movements at a Crossroads: Legalization or Illegalization
日時:2010年12月19日(日) 9:00~11:00
Convenor: KISAICHI Masatoshi (Sophia University, Japan)
Chairperson: SHIMIZU Manabu (Teikyo University, Japan)
Speakers:
1. MIZOBUCHI Masaki (Sophia University, Japan)
‘Is Resistance the Solution’: Lebanon Hizbullah's‘Resistance Society’ and its Dilemma
2. MIICHI Ken (Iwate Prefectural University, Japan)
Political Adaptation of an Islamist Party in Indonesia: The “Market Strategy” of the Prosperous Justice Party
3. Francois Burgat (CNRS, France)
Islamist Trends and Political Opening in the Middle East
Discussant
YOKOTA Takayuki (Nihon University, Japan)
Michael Feener (National University of Singapore, Singapore)
概要:
本セッションでは、“Islamist Movements at a Crossroads: Legalization or Illegalization”というタイトルのもと、3名の報告者と2名の討論者によってイスラーム主義運動の現状とその展望が議論・検討された。
まず私市正年氏から、現在のイスラーム主義運動の動向が簡潔に説明された。80年代の高揚期、その後の体制との争いや運動内部の対立を経て、イスラーム主義運動は二極化された。1つの極は、合法化の道を模索し、政治参加を果たした運動である。もう1つは、大衆の支持を維持しつつも、非合法のままの運動であり、エジプトのムスリム同胞団などが含まれる。このような潮流を踏まえ、イスラーム主義運動の現状を考察し、今後の展望を議論することが、本セッションの目的である。
まず、溝渕正季氏が、レバノン・ヒズブッラーの政治戦略を、2000年代前半から彼らが頻繁に言及している「抵抗社会」という概念から論じた。抵抗社会とは、ヒズブッラーと一体化した社会であり、彼らはこうした社会を第一にシーア派コミュニティに、次いでレバノン全体に建設・拡大していくことを企図している。しかしながら彼らが目指す抵抗社会は、シーア派内部での足場を確固たるものとすればするほど、シーア派以外の全ての宗派の支持を急速に減退させてしまうというジレンマを抱えていると主張した。
続いて見市建氏が、インドネシアにおけるイスラーム主義運動の政治戦略を、彼らの出版物を通じて分析した。同国最大のイスラーム主義運動である福祉正義党は、近年そのイスラーム主義的主張を差し控えるようになったが、その政治戦略を理解する上で重要となるのが、彼らの発行する出版物であると主張した。幅広いテーマを扱うそれらの出版物には、彼らの政治的イデオロギーを代弁するものが数多く含まれ、福祉正義党の社会的・イデオロギー的立場は変化していないと考察した。
最後の報告者であるFrancois Burgat氏は、イスラーム主義運動が活動を展開する各国の政治制度に関する比較的視座を提示した。彼は、世俗主義を進めてきた体制が、必ずしも民主的制度を施行しているわけではないと主張し、そのような体制下ではイスラーム主義政党が非合法状態にあることが少なくないことを指摘する。一方で、イスラーム主義運動が法的認可を与えられている体制において、それらの運動が権威主義的な体制の変革の一躍を担っているのでないかとの見解を示した。
これらの報告後、討論者である横田貴之氏とMichael Feener氏が、各報告者による議論をまとめた上でコメントした。その他にも、各国の事例に関する質疑、とりわけイスラーム諸国の出版業に関する意見交換など、活発な議論がなされた。
各発表は、個別のイスラーム主義運動研究として専門的な知見に満ち、大変興味深いものであった。しかし、イスラーム主義運動の行く末を議論するという目的であれば、それらの中心とも言えるムスリム同胞団を含め、より多くのイスラーム主義運動の事例を扱う必要があるのではないだろうか。また、これらの運動が活動を展開する環境や制度も一枚岩ではないことから、それらの運動が戦略的に合法的/非合法的立場を二者択一的に選択するとは必ずしも言えないのではないか。しかし、本セッションが日本におけるイスラーム主義運動研究に新たな視座を提示した点、とりわけ各国の事例から、イスラーム主義運動の今後の展望として普遍的特徴を検討したという点では、大変有意義な議論であった。
(白谷望・上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期課程)