研究会・出張報告(2010年度)

   出張報告


期間:2010年11月22日(月)~28日(日)
国名:イギリス
出張者:新井和広(慶應義塾大学・准教授)

概要:
 本出張では、20世紀前半の東南アジアにおけるアラブ・コミュニティーの状況、特に東南アジアにおけるイスラームの展開にアラブ系が果たした役割と、アラブ系による出版活動に関する情報の収集を目指した。その際注目したのは、海峡植民地や蘭領東インドにおいて英国当局や在バタヴィア英国領事館が作成した報告や通信などである。東南アジア在住のアラブ系は、南アラビアのハドラマウト地方(旧アデン保護領)出身者が大部分を占めるため、文書調査は以下の二ヶ所で行った。
1. 大英図書館(The British Library):インド省文書(India Office Record)中の、アデン統治に関する文書(R/20/A-G)
2. 国立公文書館(The National Archives):植民地省文書中の、アデンに関する文書(CO725)と、海峡植民地に関する文書(CO273)
 このうち国立公文書館では史料の撮影が可能で、撮影のためのスタンドも用意されていたため、調査中は史料を読むことよりも撮影に時間を割いた。撮影することができたのは以下のファイルである。
CO273/660/8 Messrs Alkaff and Company 1940
CO323/1626/13 Nationality laws in the Hadhramaut 1939
CO725/11/2 Political intelligence summary 1926
CO725/23/17 Status of Hadhramaut 1932-33
CO725/59/15 Education in the Hadhramaut 1938
CO725/79/13 Political intelligence summaries (Eastern) Hadhramaut 1942
CO725/84/20 Loan to the Al Kaf family 1943
FO369/4542 Indonesia- arrest of Mr Saleh Alatas, British protected person. Code KG file 16210 1950
FO371/83743 Remittances from Indonesia to the Hadhramaut in the Eastern Aden Protectorate. Code FH file 1113
J77/2429 Court for Divorce and Matrimonial Causes
 一方、大英図書館では文書の撮影が不可能だったため、インド省文書の中からファイル数点を選び、以下のファイルの調査を行った。
IOR/R/20/A/1409, File 47/2 Pt. III Hadhramaut: Miscellaneous1916-1922
IOR/R/20/A/3874, File 1472 Hadhramaut. Information regarding will of the late Seiyid S. Al Kaf of Hadhramaut and Singapore etc. 1937
IOR/L/PS/11/193 - P 444/1921 Activities of the Alkaff family in the Hadramaut [no ref.] 4 Dec 1920-19 Jan 1921

 私が今まで調査してきたのはアラブ系の中でもアッタースという家系であったが、今回はカーフ家に焦点を移して調査を行った。カーフ家は東南アジアで最も裕福な家系のひとつであり、慈善活動や宗教教育にも熱心であったため、その活動を追うことによってアラブ系による宗教活動の一端が見えてくる。一方、アラブ系による出版活動に関しては、当初予想していたほどの情報を得ることはできなかった。英国が東南アジアにおけるアラブ・コミュニティーの動向を調べる際に、アラブ系による出版物を情報源のひとつとしていたことは分かっているので、大英図書館と国立公文書館双方にまとまった形で残されている、アデン保護領情報要約書(Aden Protectorate Intelligence Summary)等を精査する必要があろう。
(新井和広)