研究会・出張報告(2010年度)

   研究会

Panel: Sufis and Saints Facing the Government and the Public I & II
*京都大学拠点ユニット4との連携

日時:2011年7月20日(火) 9:00~13:30
Organizer: AKAHORI Masayuki (Sophia University, Japan)
Chairperson:AKAHORI Masayuki

Speakers:
1. TAKAHASHI Kei (National Institute for the Humanities/ Sophia University, Japan)
“Revaluating Tariqas for the Nation: Muhammad Tawfiq al-Bakri and his Tariqa Reform 1895-1905”
2. MARUYAMA Daisuke (Kyoto University, Japan)
“Sufism and Tariqa Facing the State: A Case Study of the Contemporary Sudan”
3. Marc Toutant (CETOBAC, EHESS-CNRS, France)
“Materialist Ideology Facing a Great Sufi Poet: The Case of Ali Shir Nawa’i in Soviet
Uzbekistan;From Concealment to Patrimonalisation”
4. ARAI Kazuhiro (Keio University, Japan)
“The Media, Saints and Sayyids in Contemporary Indonesia”
5. TAKAO Kenichiro (Doshisha University, Japan)
“Shaykhs facing to Orthodoxy and Aggiornament”
6. MISAWA Nobuo (Toyo University, Japan)
“Shintoism and Islam in Interwar Japan”

Discussants:
TONAGA Yasushi (Kyoto University, Japan)
Sanaa Makhlouf (The American University in Cairo, Egypt)

概要:
 本研究グループが主催し、NIHUプログラム・イスラーム地域研究の開始以前から数えれば、14年にわたって継続されている「スーフィズム・聖者信仰研究会」は、マインツでの第1回、アンマンでの第2回に続き、第3回大会でも2パネルからなる発表を組織した。
 今回はとくに、近現代に時代を限定し、スーフィーや聖者が、近代国家やそのなかで形成された新たな民衆である「大衆」とどのように向かい合おうとしているかを、異なる地域について歴史学、宗教学、人類学の立場から検討する6本の発表を用意し、思想研究を専門とする2名の専門家によるコメントを踏まえて議論を深めた。主題設定は、近現代イスラームと公共圏をめぐる議論を折り合わせていく可能性の探求を意識しており、前半のパネルには主として国家や政府との関係を論じる3本の発表、後半のパネルには大衆との関係を検討する3本の発表を配した。
 具体的には、高橋氏は19世紀エジプトにおけるタリーカ改革を主導したムハンマド・タウフィーク・バクリーの思想を分析し、丸山氏は現代スーダンにおけるタリーカと国家との関係、とくに国家主導で創設されたスーフィーの組織を取り上げて論じ、トゥタン氏はウズベキスタンの国民的詩人であるアリー・シール・ナワーイーが、スーフィズムとの関わりについて、ソビエト政権下においてどのように扱われたかを、”patrimonialisation”(父祖性付与とでも訳すべきか)という概念を用いて説明した。新井氏は現在、インドネシアの宗教誌として広範に読者を獲得している『アルキッサ』が、ハドラマウト出身のサイイドを素材に取り上げることに多角的な分析を加え、口承伝統の代替としての機能をそこにみる結論を導いた。高尾氏は、現代シリアのアミーン・クフタールーの多彩な活動を取り上げ、元来はカトリックにおける現代化を意味するaggiornamentoの概念を援用して、スーフィズムの現代的なありようを示した。三沢氏は、日本人改宗ムスリムである田中逸平の生涯を軸に、近代日本における宗教状況とそのなかでイスラームが受容される過程を、とくに神道との関わりに注目しながら論じた。氏の発表は直接にスーフィーや聖者信仰に関するものではないが、本大会において日本におけるイスラームの受容状況を外国人研究者に知らしめることの意義を考慮してこれを最後に置き、結果的にはイスラームにおける信仰の複合性を、広い視野から問題とする効果的な締めくくりとすることができた。
 今回大会は全般に聴衆の数が少ない印象があったが、第1回、第2回大会の発表の場ですでに交流を結んだ研究者を含め、比較的多数の聴衆を得ることができ、活発な議論を招くことができた。前回に引き続き、同様の主題で研究を推進してきたCNRSからの参加者であるトゥタン氏を含め、比較的若手の研究者による発表を盛り込んだことで、世代に関しても幅の広い共同研究を実現していることが示せたのも収穫であった。
 本パネル以外に大会では、スーフィズム関係では4パネル、聖者信仰関係では1パネルが組まれ、関連するパネルも複数あって、私たちのパネルの参加者はそれらにも積極的に参加して議論に加わったが、かなり異なる視点からの取り組みも多く、それらパネルの参加者を巻き込んでさらに協力を拡大していくという点では、今ひとつ確たるものをつかめなかったのはやや残念に思われた。
 本パネルの発表内容については、これをさらに充実した論文として書き改め、Orient 46号誌上に特集企画”Sufis and Saints Facing the Government and the Public”として発表した。
(「第3回中東学会世界大会(WOCMES-3)参加報告」『日本中東学会ニューズレター』122号、15-16頁より転載、一部改稿)
(赤堀雅幸)