研究会・出張報告(2009年度)

   研究会

*文部科学省委託事業との共催
日時:2010年3月14日(日)13:30~16:30
場所:上智大学2-630a号室
発表:
石田友梨(京都大学)「スーフィズムの霊魂論 ―実践的変革概念としてのラターイフ」
 質問者:森山央朗(上智大学)
若桑遼「近代チュニジアのザイトゥーナ・ウラマーと世俗主義」
 質問者:渡邊祥子
高橋圭(人間文化研究機構/上智大学)「近代エジプトにおけるスーフィー・タリーカへの批判」
 質問者:熊倉和歌子(お茶の水女子大学)
総合コメンテーター:Khalifa Chater、Iik Ariffin Mansurnoor
*使用言語:アラビア語

概要:
 最初の報告は、石田友梨氏(京都大学・院)による「スーフィズムの霊魂論―実践的変革概念としてのラターイフ」であった。この報告の中で、石田氏はスーフィズムにおける古典的なラターイフという霊魂論を再考した。最初にイルハン朝期の神秘主義者アラーウッダウラ・シムナーニー(d. 1336)が取り上げられ、ラティーフという概念を用いた彼の霊魂論の7つの段階が提示された。この霊魂論はのちに個人の精神的レベルだけではなく社会的レベルにまで密接に関連するようになった。とくに近代では南アジアの思想家シャー・ワリーウッラー(d. 1762)が社会変革を呼びかける際にこの概念を用いている。質疑応答では、先行研究における当報告の位置づけ、提出された各概念の相違などに関する質問が出された。
 ふたつ目の報告は、若桑遼(上智大学・院)による「近代チュニジアのザイトゥーナ・ウラマーと世俗主義」であった。チュニジア独立期の世俗主義政策に対するチュニジア人ウラマーの見解を主に思想面から考察するものであった。とくに1955年の『ザイトゥーナ誌』が主史料として扱われ、政教分離の反対、イスラーム政府設立を求める主張およびその論拠が具体的に示された。報告の後、コメンテーターのKhalifa Chaterチュニス大名誉教授は、独立期のブルギバの政策を個別具体的に解説された。また報告中に報告者が提示した「宗教的多元主義」という概念に関してフロアから疑問点がいくつか提出された。
 最後に高橋圭氏(上智大学)は、「近代エジプトにおけるスーフィー・タリーカへの批判」と題する報告を行った。高橋氏はそのなかで、先行研究に依拠しながら19世紀後半に生じたエジプトにおける近代改革主義者によるタリーカ批判を概観した。そのあと、エジプト民族主義者で批判運動の先鋒となった、アブドゥッラー・ナディーム(1845-1896)というひとりの人物に焦点を当てた。ナディームは、現状のタリーカを非難したが、タリーカがエジプト民衆に対する影響力を重要視し、タリーカが元来の形式の保持するよう訴えた。質疑応答では、報告者が用いた史料(新聞)に関する質問が出され、また近代イスラーム史の文脈での位置づけ、ワッハーブ運動とのかかわりなどが議論された。
 以上の報告、コメント、質疑応答は、実験的なこころみとして原則的にすべてアラビア語で行われた。以下に報告者のひとりとして簡単な感想を述べさせていただく。アラビア語による研究発表はたいへん貴重な場で、実践的であった。アラビア語による国際会議などの場に備える目的もあったと考えられる。今後、内容に加えて、学術的使用に耐えうるような適切な語句・表現の選択など文体の厳密さも追及されるべきであろう。
 (若桑遼・上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期課程)