研究会・出張報告(2009年度)
出張報告- モロッコ・チュニジアにおける資料調査(2010年1月26日~2月10日)
期間:2010年1月26日~2月10日
国名:モロッコ・チュニジア
出張者:若桑遼(上智大学・博士後期課程)
概要:
フランス植民地期を対象とする歴史研究に関する資料調査を目的として、モロッコ、チュニジアのマグレブ域内の二カ国を訪問した。両国は文脈の類似する歴史経験をもつが、今回の調査は比較研究を遂行するための基礎調査にあたる。とくに、①両国の国立図書館や研究機関の所蔵状況および出版状況の調査、②両国の実地見学を行うことを目的とした。
モロッコには、2月26日から3月3日までの8日間、首都ラバト、フェス、メクネスの三都市に滞在した。首都ラバトでは、モロッコ王国立図書館、ジャック・ベルク研究センターを訪問した。モロッコ王国立図書館は、モロッコ5世大学人文社会学部キャンパスのあるAgdal地区のIbn Battuta通りではなく、同地区のIbn Khaldun通りに新たに移転されていた。広いスペースに図書が開架されており利便性が高い。ジャック・ベルク研究センター(CJB)は、フランス外務省とフランス国立科学研究所(CNRS)のもとで運営され、後述のチュニスの現代マグレブ研究所(IRMC)と姉妹関係にある。在学証明書を示せば大学院生でも利用できた。PC端末で所蔵情報の検索が可能であった。1月30日に列車でフェスに移動。旧市街を実地見学した。当初、カラウィーイーン大学付属図書館での文献調査を予定していたが、あいにく訪問日が土日と重なり休館であった。利用できたのは月曜日のみ。検索はPCではなく目録のみであった。2月1日にフェスの南西約50kmに位置するメクネスに滞在。旧市街では、フェスでは非公開であったマリーン朝期のマドラサ内部を見学することができた。2日夕方に列車でラバト着。市内のいくつかの書店のなかでも、Mohammad V通りにあるTroisieme Millenaire書店は、質の高いアラビア語・フランス語書籍の品揃えが豊富であった。翌日カサブランカ国際空港からチュニスへ移動。
チュニジアでは、首都チュニスに2月3日から9日まで滞在した。4日に現代マグレブ研究所(IRMC)図書室、5、6日にチュニジア国立図書館で資料調査を行った。IRMCは、フランス外務省、さらに同国高等教育・研究担当省下に監督されるフランス系研究機関で、付属図書室は主に大学院生以上の身分で利用ができる。パソコン端末で所蔵情報を検索が可能。各国大使館のある閑静な住宅街(Mutuelleville)の一角にあり、所内は細やかな手入れがされている。チュニジア国立図書館は、ザイトゥーナ・モスクで所蔵されていた中世期の写本を中心とするコレクションに加え、植民地期以降チュニジアで発行された書籍・定期刊行物を網羅的に所蔵している。5年ほど前に1938年4月9日大通りに国立公文書館を併設する敷地内に大きな新舎が建設された。現在でも所蔵の一部は旧市街のSouk Al Attarine通りにある元の建物に保管されている。チュニス滞在中は、Habib Bourguiba通りのAl Kitab書店やCeres出版社などを周り、出版流通の状況を観察した。とくに歴史学に関わる著作は、主な対象期間をブルギバ政権初期に移しており、また絶版となっていた重要な二次資料の再版もみられた。今後もこれらの出版状況の推移を追うことが必要であろう。7日と8日の両日は、チュニス大学名誉教授Khalifa Chater博士の自宅に招かれ、研究に関する意見交換を行った。博士はチュニジア近現代史を専門とされる歴史学者で、同国の国史編纂にも携わるチュニジア歴史学界の重鎮であるが、気さくなお人柄で、多方面にわたり貴重なご助言をくださった。博士は3月11日から18日までSIAS研究グループ1の招聘で来日されることになっている。出張者は2月9日に全日程を終え、チュニス・カルタゴ国際空港からパリ経由で日本に帰国した。
(若桑遼)