研究会・出張報告(2009年度)

   出張報告

期間:2009年11月17日~11月27日
国名:トルコ
出張者:荒井康一(上智大学・共同研究所員)

概要:
 本出張の目的は、トルコの民衆レベルにおけるイスラーム運動・意識および民族主義運動・意識の実態について、計量的な分析からのアプローチを試みる研究の一環として、計量分析に必要な、南東アナトリア地方の詳細な社会経済データ・開発関係資料および2007年の国会議員選挙データの収集を行うことであった。そのため、滞在先は、官庁が集中するアンカラとした。
 主な訪問先と調査内容は、以下の通りである。
 1.トルコ首相府統計局(TUトーK)
 統計局は近年、名称がDトーEからTUトーKへと改称されたが、以前に訪れた際と、建物も図書室の利用方法も同様であった。具体的な調査内容は以下の通りである。
 ・2007年国会議員選挙の統計を入手した。
 ・県別の社会経済統計を3種類入手した。
 南東アナトリア地方は、動員的な投票行動が特徴的であるが、2007年選挙のデータによれば、親イスラーム系与党である公正開発党(AKP)への動員的投票が急増しており、与党志向性が認められる。
 2.トルコ首相府南東アナトリア地域開発局(GAP-BKトー)アンカラ駐在員事務局
 GAP-BKトーは、南東アナトリア開発計画が開始された後、1989年に設立された組織で、主にGAPの社会経済部門の計画立案・調査などを担当している。今回は、南東アナトリア地域の社会経済データと政策資料を得るために訪問した。
 現在は、本部をアンカラから、現地のウルファへと移動し、アンカラの事務局は住宅地の中の小さな建物に入っている。そのため、資料はアンカラにはなく、一般販売しているもののみ、ウルファの本部から郵送していただくことになった。今後、より詳しい資料を閲覧・入手するためには、ウルファの本部を訪問する必要があるだろう。具体的な調査内容は以下の通りである。
 ・水資源管理、社会経済変容、人口移動、社会開発計画についての報告書を購入した。
 ・アンカラ事務局長のトルガ・エルドアン氏と会談し、アドバイスを得た。
 これらの資料によると、南東アナトリア地方は、依然として人口増加・都市化・雇用が大きな問題であり、都市部での社会サービスが求められ、また農村部では部族長や宗教指導者の影響が残っていることが指摘されている。
今後の課題:
 まずは、今回入手したデータ・資料をもとに、データ分析・計量分析に役立て、南東アナトリア地方の社会経済変容と、それが投票行動にもたらした影響についての分析を進めたい。
 また、南東アナトリア地域はまだ開発が進行中であるため、ウルファ本部を訪問し、今後の報告書を継続的に入手することも欠かせない。ただし、政治的な問題を抱えている地域でもあるため、入手に困難が生じる可能性もあるだろう。
 (荒井康一)