研究会・出張報告(2009年度)

   出張報告

期間:2009年6月3日~6月14日
国名:シリア
出張者:溝渕正季(上智大学・博士後期課程)

概要:
 今出張の目的は、ヒズブッラーをはじめとするレバノンのイスラーム主義運動(ここでは、ヒズブッラーをいわゆる「イスラーム主義運動」と分類することが果たして適当か否か、という問題は一先ず脇に置くこととする)に関して、主に研究者・識者へのインタビューや文献調査を行うことであった。同時に今出張は、2007年7月にイスラーム地域研究上智大学拠点の研究事業の一環として行われた髙岡豊氏のレバノン・シリア出張の延長線上にも位置付けられる。
 ベイルートにおいて出張者は、主に、サン・ジョセフ大学、ベイルート・アメリカン大学、「ベイルート調査情報センター」、「マカーシド・イスラーム慈善協会」、「研究と史料編纂のための諮問センター」等の機関を訪れ、それぞれの機関の研究者・識者との意見交換を行うと共に、今後も継続的な研究協力体制の構築・強化が必要であることを確認した。また、当該研究課題にとって有用であると思われるいくつかの資料を入手することにも成功した。
 他方で、ダマスカスにおいて出張者は、オリエント国際研究センターやフランス中近東センターなどを訪れ、ダマスカスにおいてもそれぞれの機関の研究者・識者との意見交換を行うと共に、今後も継続的な研究協力体制の構築・強化が必要であることを確認した。また、いくつか有用な資料も入手できた。
 だが、2007年7月の髙岡氏の出張報告にもあったように、近年、とりわけ2006年夏のレバノン戦争と2008年2月のヒズブッラー軍事部門幹部暗殺事件を境として、ヒズブッラーはその傘下組織と外部者との接触を著しく制限するようになってきた。こうした傾向は現在においても一層強化への方向に向かっており、とりわけヒズブッラーの本拠地であるベイルート南部郊外地区(レバノンでは一般に「ダーヒヤ」と呼ばれている)では、見慣れない、ないしは許可証を持たない外国人は「とりあえず」一時的に拘束するという事態にまで至っている。幸い出張者は、シーア派レバノン人の知人の同行を得てこうした地域に足を踏み入れることが可能となったが、こうした治安上の問題をどう乗り越えていくのかという点は、ヒズブッラー自体に関する実証研究と共に、今後の非常に大きな課題であると言えよう。
 (溝渕正季)