研究会・出張報告(2008年度)

   研究会

日時:2009年3月6日(金)15:00~17:00
場所:京都大学吉田キャンパス総合研究2号館(旧工学部4号館)4階第一講義室(AA401号室)
報告者:イツハク・ワイズマンItzchak Weismann
タイトル:"The Naqshbandi Sufi Brotherhood in Modernity and Globalization"

報告:
 Weismann氏は、ナクシュバンディー教団の専門家で、今回のセミナーでは19世紀から今日にかけて複雑に展開してきた、イスラーム原理主義とスーフィズムの関係史を講演した。一般的に原理主義者たちはスーフィズムをビドア(イスラームからの逸脱)であるとして批判し、糾弾する傾向があるとされてきた。しかしながら、その2者は実際、互いに密接な関係にあり、近代化、グローバル化の流れの中でともに発展してきたということを、シリアのアフマド・クフターローやトルコのベディユッザマン・サイード・ヌルスィー、さらにインドや東南アジア、中国など、Weismann氏自身がフィールドで収集した事例を交えながら、実証的に論じた。
 まず、イスラーム原理主義の発展の歴史を、初期サラフィー時代、大衆イスラーム運動時代、そして今日のグローバル・ジハード運動に区分した。その時代枠組みに、12世紀に中央アジアで勃興したナクシュバンディー教団が、インドやオスマン帝国各地、そして世界大に発展してゆく過程を重ね合わせて、2者の密接な関係を論じ、サラフィー運動以降衰退してきたとされたスーフィズムは、同胞団をはじめとするイスラームの改革主義とともに発展してきたことを明らかにした。
 そしてナクシュバンディー教団の特徴を詳しく述べた。それは第1に、スィルスィラがアリー系よりもむしろアブー・バクル系によっているということ、第2に、ナクシュバンディー教団は俗に「ウラマーのタリーカ」と呼ばれるように、他のスーフィーたちが歌や舞踊を伴う陶酔的な実践を行うのとは異なり、沈黙のズィクルを中心とする実践を行うこと、第3に、「同胞の原則(Principle of the Brotherhood)」とWeismann氏が言うように、近代以前から社会参加的な志向が強かったことを挙げた。
 質疑応答では、そうした他宗教が混在する今日的状況の中でナクシュバンディーであることの基準はなんであるか、他宗教と接する状況の中で、ナクシュバンディー教団の考える「アブラハム的宗教」の理解はどのように展開しているか、イスラーム改革派との関係、例えばインドのデーオバンド派との関係はどうであるかなど、活発な議論が交わされた。
 (若松大樹・上智大学大学院外国語学研究科博士後期課程)