研究会・出張報告(2008年度)

   出張報告

期間:2009年3月1日~3月10日
国名:インドネシア
出張者:見市建(岩手県立大学総合政策学部講師)

概要:
 ジャカルタおよびソロではイスラーム本の展示会「イスラーム・ブック・フェア」を訪れ、福祉正義党、サラフィー(ワッハーブ)主義、解放党、武装闘争派のジャマーア・イスラミヤ系の出版社の書籍を収集するとともに、関係者へのインタビューを行った。とくに解放党の国家論についての党員向けの教本、昨年末に処刑された2002年のバリ島爆弾事件実行犯3人の回顧録を入手できたのは大きな成果だった。
 インドネシアは2009年4月に国会議員選挙、その後大統領選挙が予定されている。本出張では、主要政党の関係者や報道関係者から聞き取りを行い、選挙への政党の対応や有権者の動向について調査を行った。各種世論調査では現大統領のスシロ・バンバン・ユドヨノの人気は依然として高く、国会議員選挙ではユドヨノ大統領の民主党がどこまで票を伸ばすかが最も大きな焦点となる。都市部を中心に2004年選挙で躍進したイスラーム主義政党である福祉正義党がさらなる支持拡大を遂げるかどうかが第二の注目点である。福祉正義党は近年あからさまなナショナリズム賞賛が見られ、またイスラーム政党よりも民主党など世俗の大政党との連立を模索している。聞き取り調査では、こうした党の方針に対する党員の不満が、これまで強固な一体性を誇ってきたこのイデオロギー政党に亀裂を生んでいるとの声が聞かれた。次回の国会議員選挙に立候補する党幹部すらも、党の戦略に対する不満を漏らしていた。ただし、こうした党内の不協和音がどれほど選挙結果に反映されるかは未知数である。
 ソロではジャマーア・イスラミヤ関係者からの聞き取りを行った。当局の取り締まりが厳しい現状では武装闘争の継続は難しいが、武装闘争を行うべき、あるいはそのための準備をしておくべきであるとの意見を聞くことができた。他方で、これまでの武装闘争路線を修正し、宣教による組織拡大によって漸進的にイスラーム国家実現への努力を続けるべきであるとの意見もあった。少なくとも表向きは、後者の意見が主流であり、実際に新組織アンソール・タウヒードを中心とした組織の立て直しが図られている。
 シンガポールでは、シンガポール国立大学の研究者とインドネシアおよびタイにおけるイスラーム運動、とくに後者は南部の独立運動について意見交換をした。また主として英語の文献収集を行った。
(見市建)