研究会・出張報告(2008年度)

   出張報告

期間:2008年10月16日~11月11日
国名:クウェート、バハレーン
出張者:石黒大岳(神戸大学大学院国際文化学研究科博士後期課程)

概要:
 本出張の目的は、クウェート、バハレーン両国において、イスラーム主義を掲げ議会選挙に参加している政治団体を中心に、政治団体の選挙活動および議会活動に関する聞き取り調査と関連する資料を収集することであった。
 クウェートでは、まず、クウェート大学社会科学部政治学科を訪問し、アブドッラー・サハル教授のご厚意により政治学科の主な教員と面会し、近年の政治状況についてそれぞれ意見交換を行った。次に、国民議会において、アフマド・ムレイフィー議員(無所属・元国民行動会派)とナーセル・サーニウ議員(イスラーム立憲運動/ムスリム同胞団)と面会し、選挙活動・議会活動の実態について聞き取りを行った。なお、イスラーム・サラフィー連合所属の議員との面会は都合がつかずかなわなかった。上記のような聞き取り調査と並行して、クウェート大学図書館および湾岸アラビア半島研究センターにて議会議事録・年報や官報、アラビア語学術誌を閲覧・複写した。また、市内書店で新刊書を購入した。
 大学での聞き取り調査では、イスラーム主義勢力とリベラル・左派勢力とのイデオロギー対立による二極化は依然としてあるものの、政府と議会の対立とも絡んだ実際の対立要因としては、ファミリー・ビジネスの利権や部族の利害に絡む問題の方が大きいとのことであった。部族勢力があからさまな利害の主張を糊塗する方便としてイスラームを用いる “Tribalized Islam”という現象が起きているとの興味深い指摘もあった。また、ムスリム同胞団の政治組織であるイスラーム立憲運動に関しては、政府とのバーゲニングによりメンバーの閣僚任命を認める一方で政府を糾弾する姿勢について、彼らなりの合理的選択あるいは議会経験の成熟化傾向との評価もあるものの、そのような姿勢が、有権者には日和見ないしは一貫性のなさと映り、サラフィーへ支持が流れて2008年選挙での議席半減を招いたとの評価が大勢であった。議員からの聞き取りでは、2008年選挙に関して、新しい選挙制度の下で初めての選挙だったため、手探りで戦略ミスも多々あったことや、支持基盤を強化のため、議会内での議員連合からより有権者に接近した形での連合構築あるいは「政党」化の必要性についての言及があり、選挙制度の変更が大きな影響を及ぼしていることが改めて確認できた。
 クウェートでの聞き取り調査では、結果的に調査対象へのアクセスに友人・親戚などの人的のネットワークに頼ることが多かったこと、調査対象の政治的立場や分析視角の違いから評価の分極化が著しく、外部からの観察者として情報に振り回されないよう軸を定めて総合化してゆく必要があることなどの課題が残った。
 バハレーンでは、まず、バハレーン大学人文学部社会学科のバーキル・ナッジャール教授を訪問し、バハレーンの政治状況について意見交換した後、活動家の紹介を受けた。次に、シーア派イスラーム主義の政治団体である国民イスラーム協約(ウィファーク)の広報部門からジャーセム・フセイン議員の紹介を受け、事務所を訪問して議員に聞き取りを行ったほか、地方議員宅で行われた支持者への国政報告会に参加した。また、スンナ派でありながら、政府支持の国民イスラーム・フォーラム(ムスリム同胞団)やアサーラ協会(サラフィー主義)とは一線を画している国民公正運動(アダーラ)の本部事務所を訪問し、ムヒーッディーン・ハーン副代表に聞き取りを行った。なお、政府支持派の上記スンナ派2団体については日程の都合がつかなかった。その他、アダーラ広報部の好意もあり、バハレーン議会の上院・下院それぞれの審議を傍聴し、議会図書館で関連資料を閲覧することができた。
 今回、バハレーンについては予備調査の位置づけであったが、クウェートに比べ政治団体や議員個人、議会広報へのアクセスは容易であることが確認できた。社会の開放性とは裏腹に、政治状況への閉塞感・抑圧感は想像以上のものがあり、野党勢力としては外圧に期待し国外へのアピールに努めていることもその背景にあるものと考えられる。
 (石黒大岳)