研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

共催:グループ2、早稲田大学拠点
日時:12月8日(土)15時30分~17時30分
場所:上智大学2号館630a号室
報告:
  Ervan Nurtawab (Professor, Syarif Hidayatullah State Islamic University),
  "The PKS and the Future of Islamic State in Indonesia - "A Long-Running Jihad""

○エルヴァン・ヌルタワブ「PKSとインドネシアにおけるイスラーム国家の将来――長きに渡る『ジハード』」
 Ervan Nurtawab氏の発表では、2004年インドネシア総選挙で躍進したPKS(Partai Keadilan Sejahtera, 公正開発党)についての報告がなされた。とくに報告では、ムスリム同胞団との思想的つながりをみせることから同胞団の創始者であるハサン・バンナーのイスラーム国家論が概観され、その後PKSがインドネシア政治の文脈のなかでどのようなイスラーム国家論をもつのかが議論された。
 発表者は、まず、PKSの特徴がムスリム同胞団の思想的影響を強く受けていることであるとし、同胞団の創始者であるハサン・バンナーのイスラーム国家論をあつかった。ここでは主にRichard P. Mitchellの学説を用いながら、ムスリム同胞団のイスラーム国家論をシューラー制の概念などを中心にして論じた。
 つぎに、インドネシア政治におけるPKSの具体的な活動が取りあげられた。PKS活動家たちは、ムスリム同胞団(とくにハサン・バンナー)のイデオロギーを用いて、1980年代より社会的・宗教的・政治的運動を展開してきた。その運動は20年にわたるタルビヤ運動に代表され、そののちPK(Partai Keadilan, 公正党)が結党された。発表者によれば、このタルビヤ運動こそが同胞団の教義を浸透させるためのもっとも重要な媒体であった。
 しかし、それにもかかわらずPKSはインドネシアの政治的文脈において現実的な状況に妥協的な態度をとってきた。これはPKS活動家たちがイスラームとスンナに立脚する憲法を求めていながらも、現実的にはジャカルタ憲章やパンチャシラを改訂する動きを見せていないことからも明らかとなる。発表者は、同胞団の政治的概念はその基本的なイデオロギーにおいてでさえ変容してきているとする。すなわち、同胞団の政治的見解とPKS活動家のイデオロギー、PKSの公的見解には相違が見られるのである。
 発表最後の質疑応答では、PKSの宗教多元主義に対する見解や、エジプトのムスリム同胞団との直接的な関係の有無などについて議論が交わされた。当発表の意義を述べると、これはインドネシアにおいて今まさに動いているイスラーム社会・政治運動を政党レベルから報告するもので当研究班のイスラーム主義運動研究を進めるうえで貴重な機会となった。
 (若桑遼・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士前期課程)