研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

日時:2007年11月3日(土)12時半~14時半
場所:上智大学四谷キャンパス2号館6階630b会議室
報告者:Ms. Labi Hadji Sarip Riwarung (Mindanao State University)
演題:How an "Outlaw" becomes a Hero in the Folk Songs: Dimakaling as Described in Darangan (Maranao Folk Songs)
コメント:川島緑(上智大学)
出席者:8名
使用言語:英語(通訳なし)


報告:

 報告者は、南部フィリピンのマラナオ社会とその文化を専門とする文化人類学者であり、マラナオ語口承文学についての造詣が深い。本報告では、1930年代にミンダナオ島ラナオ地方で活動した有名な義賊、ディマカリンについて、彼を主人公とするマラナオ語民衆歌謡(ダラガン)の作者と内容を紹介し、それにもとづいて、現地の人々が当時、彼についてどのようなイメージを持っていたかを論じた。ディマカリンは、地元の人びとから、「パガヤワンのパノンディオンガン・シンバン(パガヤワン町の恐るべき王)」という尊称で呼ばれていた。彼は米国植民地政府の警察軍と戦ったため、政府から「無法者」とみなされ、官憲に追われていたが、ダラガンの中ではイスラーム共同体を護るために勇敢に戦った英雄として描かれている。ディマカリンが警察軍に射殺される一節では、彼の死は殉教として感動的に語られている。ダラガンには、ディマカリンの時代以前に起きた、マラナオ人指導者による米国植民地統治に対する武装抵抗の物語も織り込まれている。ディマカリンは、ラナオ地方を侵略し、異質な法を強要した外部者に対する人びとの抵抗を象徴する存在であった。マラナオの人々がディマカリンに保護を与え、英雄視したのではそのためであった。
 ダラガンには古典マラナオ語が用いられており、現代のマラナオ人にとってもこれらの現地語資料を読みこなすことはむずかしく、研究上の関心も低い。そうした中で本研究は、現地の研究者による、現地語資料に基づく先駆的研究として大きな意義を持っている。(文責:川島緑)