研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

国際ワークショップ “Rethinking Tariqa: What Makes Something Tariqa?”
日時:2007年10月12日(金)~13日(土)
場所:京都大学AA447号

報告③:
Closing Session

○Tonaga Yasushi (Kyoto University)
 まず、本ワークショップの問題意識を明確に示した東長氏によるオープニング・セクションでの研究方針に基づいて全発表者の発表をまとめることによって、第一、第二セッションの議論を明確化し、総合討論における議論が生産的なものとなるよう道筋がつけられた。具体的には、東長氏は、(1)タリーカなる概念を取り扱って行く上での問題群、および(2)タリーカを構成する要素という二側面から各発表の特質をリストアップすることによって、それらの共通点/相違点を明らかにした。とくに前者(1)については、タリーカを実体概念/分析概念のいずれとして各発表者が理解しているのか、スーフィズムとの関連の有無、組織としてタリーカを把握可能かどうかなどといった諸点から各研究者の議論の内容が確認された。これに対し後者(2)については、暫定的に「リネージ」、儀礼/実践という用語のもとで個々の発表の事項内容が一覧として提示された。
 さらに、東長氏によるまとめの妥当性について各発表者に確認が取られる過程で、スィルスィラをタリーカの重要な構成要素と見なしうるのかどうかという点をめぐる是非、タリーカを構成する要素をリネージおよび儀礼/実践という二側面のみでは把握しきれないであろうこと、新たな要素を盛り込み必要性があること、儀礼/実践を区別すべきであろうこと、などといった諸点について議論が深められた。最後に、今回の発表では教義が取り上げられることはなかったものの、成員の結合に対して教義も重要な役割を果たしうるものとして看過できないのではないかというコメントが東長氏より付せられた。
General Discussion:
 総合討論は、(1)藤井氏の発表におけるタリーカ理解、(2)教団名をめぐる理解、(3)スィルスィラを重視する研究姿勢の妥当性、(4)一般民の視点から見た場合の教団理解など、大きく四つの主題を巡って展開された。
 第一に、ザンジバルにおけるスーフィー教団を(a)タリーカ一般と(b)儀礼集団として特殊化したズィクリ・グループの二類型に分類した藤井氏の発表に対する質問は、ズィクリ・グループは、彼ら自身の認識からするならばタリーカとして見なされているのではないか、という質問がなされた。さらに、この質問と対応して、ズィクリ・グループに関する藤井氏による説明の中に、タリーカにおける修行実践の中核をなすファナーなどの概念について明確な言及がなされていなかったことを受けて、指導的立場にある者が、ファナーや精霊による憑依について一体どのような見解を有しているのかという点について質問が出され、藤井氏が提起した分類枠組みの妥当性に対して、発表で展開された組織論的側面のみならず、構成員の認識、タリーカとしての活動実践を支える理論的側面からの検討が必要であることが示唆された。
 第二に、初日の議論を受けて、マラーマティーヤなど教団創始者の名を冠していない教団名が複数存在することを考慮に入れるならば、創始者名継承はタリーカ形成において真に重要な要素と見なしうるかという疑問が提出された。これに触発され、創始者名の理念的な重要性とタリーカ名が必ずしも創始者名を冠していないという実態の齟齬が再確認された上で、マラーマティーヤの事例などからシャイフの権威の欠如がタリーカ名にも影響を及ぼしている可能性への言及、教団名が教団が奨励している活動を反映したものがあるという指摘に始まって活発な議論が展開された。
 第三に、スィルスィラについてであるが、本ワークショップにおけるスィルスィラをめぐる議論は、スィルスィラをタリーカ研究の中核に据えることが出来ないということを示唆しているかもしれないという意見が提出された。これに対し、アイデンティティーの核としてスィルスィラが活用されている側面を軽視してはならないという意見、研究者を初めとする部外者に対して、対外的には自らの正当性を主張するためにスィルスィラが必要とされる一方で、教団関係者間ではスィルスィラはさほど必要とされないのではないかという意見、彼ら自身の言葉や認識を手掛かりとした上で、スィルスィラの重要性に関する理解を深めた方が良いという意見などが提出された。
 第四に、二宮氏の発表と質疑応答で明らかになった「下から」の、一般民の視点に基づくタリーカ像の再検討や、ワークショップ初日の藤井氏および私市氏による発表において顕著となった分類の妥当性について今後さらに議論を深化させてゆく必要性が確認された。
Concluding Remarks:
Hamada Masami (Kyoto University)
 浜田氏は、本ワークショップの総括として、まずスーフィー、タリーカの政治的側面に関心を寄せ続けてきた自身の研究関心について振り返り、こうした姿勢を修正する必要性があると考えていることに触れた。氏の発言は、スーフィーの視点に立って、彼らの主張を理解することの重要性を再認識したものであり、本ワークショップにおける主題について今後考察を深めてゆく上でも、組織論的側面に関心が集まった今回とはまた異なる観点から成果を挙げてゆく上での指針となる提言であった。
 また本ワークショップにおいて東長氏より提唱された実体的概念および分析的概念を区別すべきという姿勢については、今後とも両者を厳密に区別していく必要性が強調されたほか、仏教を初めとする他宗教における「教団」の活動との比較研究を展開していくことも提唱された。
(斎藤剛・日本学術振興会特別研究員)