研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

テーマ:「サラフィー思想・運動の再考」
日時:2007年9月22日(土)・23日(日)
場所:KKR宮の下
〒250-0402 神奈川県足柄下郡箱根町木賀1014
電話:0460-87-2350
箱根登山鉄道・宮の下駅、徒歩15分
ホームページで確認ください。http://www.kkrmiyanosita.com/

報告④:
○石黒大岳氏(神戸大学)「クウェートにおけるサラフィー運動と政治参加」

 クウェート政治が研究対象である石黒氏は、クウェートにおけるサラフィー運動の隆盛と政治参加、およびその過程でのムスリム同胞団を中心とする他の組織との関係について報告した。1947年以降のクウェートにおける宗教系団体設立運動の盛り上がりを背景に1965年に設立された「サラフィー団」は、同胞団やジャマーア・タブリーグなど既存の組織との差異化を図るため、これらの組織とのイデオロギーの違いを打ち出し、特に同胞団とは対抗関係にあった。1981年には「サラフィー団」の公式団体として「イスラーム遺産復興協会」が設立され、それまでは同胞団の「社会矯正協会」の枠内で活動していたサラフィー思想の持ち主の多くは「イスラーム遺産復興協会」へ移籍した。一方、学生レベルでは、1976年の学生委員選挙に際して、同胞団とサラフィー主義の学生で「同盟リスト」を作成したが、1980年には同胞団とサラフィー団の対立を受けて、分裂した。また、1976年に解散・閉鎖された国民議会の再開と憲法修正という点で同胞団とサラフィー団は一致していたが、憲政復活に向けた実質的な活動は左派主導であったため両者とも参加せず、1990年に設置された国民評議会にも参加していない。サラフィー団や同胞団といった各団体は分裂、細分化し、それぞれ対立、競争関係にあるが、対政府で一致できるトピックがあれば、選挙の際には協力する姿勢を見せている。
 参加者からは、報告内容が先行研究の整理に留まっている点について批判があったが、1990年代以降のイスラーム勢力の拡大の中で、その中核を担うサラフィー団と同胞団が組織の分裂、細分化を起こしている状況の背景を知る上で、クウェートにおけるサラフィー運動の誕生からの両者の関係を整理することは意味のあることである。また、本研究会の論点の一つであるサラフィー運動とイスラーム主義運動との関係を議論するうえでも、意義深い報告である。
 (菊池恵理子・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士前期課程)