研究会・出張報告(2007年度)

   出張報告

期間:2007年8月24日(金)~2007年9月11日(火)
国名:アルジェリア
出張者:私市正年(上智大学・教授)

概要:
 本出張は研究グループ1の研究課題「イスラーム主義運動を社会運動・民衆運動の視点から再検討する」に沿って、アルジェリアにおける最近のイスラーム主義運動を調査することを目的としたものである。調査では、現地の研究者にインタビューすることと、いわゆる民衆的な地区を実地観察することの二つの方法を用いた。
 アルジェではカトリックのThierry Becker神父とグループ1の研究分担者Arous Zoubir氏と会い、意見交換をした。Becker神父からは、1990年代の困難な体験とアルジェリア社会の歴史的問題の後遺症という指摘が現状を理解する上でも示唆的であった。
 アルジェリア西部地方の大都市オランではBahadi Mounir氏(オラン大学社会学部教授)と会い、オランの若者たちの動向を伺った。トレムセンではMustapha Seladji氏(歴史学)と会い、聖者崇拝とイスラーム主義運動の関係について最近の状況について意見交換をした。
 東部の都市アンナバでは、旧市街を歩きながら観察調査をし、比較的リベラルな状況が伺えた。コンスタンティーヌでは、アブデルカーディル・イスラーム大学を訪問し、学長及び事務長と意見交換をした。学長からは、アルジェリアにおけるイスラーム高等教育の現状と課題について貴重なお話を伺った。とくに1990年代のテロリズム体験がアルジェリア人の中に残した傷の癒し方の困難さ、という話は貴重であった。
 アルジェリアのオーレス地方ではバトナを訪れた。バトナは解放戦争揺籃の都市であり、ここでは「ムジャーヒディーン博物館」を訪問し、館長と意見交換をした。同時に旧市街を歩き観察調査を行った。館長との意見交換の中で、解放戦争の精神的遺産には、正と負の二面性があるように思えたことが興味深かった。南部のビスクラではZemmam氏(ビスクラ大学教授)と弁護士のZamakhshari氏に面会し、植民地期のウラマー協会について意見交換をした。またシディー・ウクバの町とTolgaの聖者廟を視察した。砂漠のオアシス地域が社会変革にはたす役割という話は非常に興味深かった。最後に私が調査中のEl Hamilのザーウィヤを訪れ、首都アルジェに戻った。
 以上のように短期の調査研究ではあったが、現代イスラーム主義運動の背後にある多様な問題が伺え、貴重な成果をあげることができた。
 (私市正年)