研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

日程:2007年7月26日(木)~7月27日(金)
場所:上智軽井沢セミナーハウス

報告③:
○東長靖(京都大学)Itzchak Weismann, "Law and Sufism on the Eve of Reform: The Views of Ibn `Abidin," Itazchak Weismann and Fruma Zachs (eds.), Ottoman Reform and Muslim Regeneration: Studies in Honour of Butrus Abu-Manneh, London and New York: I.B. Tauris, 2005, pp. 69-80.
 本論文は、オスマン朝タンズィーマート期のサラフィーヤによる改革運動の先行者として、19世紀初頭のシリアの法学者イブン・アービディーンに注目する。19世紀のオスマン朝において、サラフィーヤはイスラームの合理性と信仰の原理的統合を主張し、当時の社会に浸透していた伝統的な法学のあり方とスーフィズムを、ビドア(逸脱)として批判した。しかし前タンズィーマート期において法学者がスーフィズムと手を携え、サラフ時代のモデルと一致するようなムスリム社会を作り、難局を乗り切ろうとしていた事例がある。それがスーフィズムに関心のある法学者イブン・アービディーンとシャリーアへの嗜好性を持つスーフィー、ハーリド・バグダーディーの協働関係である。事実、イブン・アービディーンは、サラフィーヤが批判することになるイブン・アラビーや聖者廟参詣、ハーリド・バグダーディーを擁護する論文を数多く出版している。本論文の結論は、こうしたイブン・アービディーンの一連のスーフィズム擁護から、彼が、スーフィズムは本来的に変化に対応できる力を有しており、近代化に対応する力があると考えていたというものであった。
 発表後のディスカッションの中心となったのは、サラフィーヤと近代の関係に関してであった。参加者からは、サラフの考えは近代以前にも根強くあったものであり、19世紀特有のものではないという意見が出た。この意見を受けて、当事者が生きた時代以前を否定し改革するための装置として、「サラフ」概念が通時代的にたびたび使用されてきたのではないかという意見も出た。また、その点から、サラフィーヤは近代の制約は受けたが、その考えや概念は、時代を超えて通底するのではないかという意見も出された。また、こうしたサラフィーヤの通時代性だけではなく、通地域性についても指摘がなされた。本論文は特定の時代・地域を扱ったものであるが、上記の議論をふまえて、今後通時代的な「サラフ」概念について考察していくことで、サラフィーヤに関する議論に新たな方向性を示せるのではないかと考えられる。
 (安田慎・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)